循環型社会にふさわしい水利用を実現するために
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沖縄に水を学ぶ
沖縄の島めぐりをしていると、水にまつわる施設なり記念碑によく出くわす。 粟国島では、かつて雨水を溜めるために使われた「トゥージ」と呼ばれる石造りの甕が、なお、家 の前においてある。
昔は、この「トゥージ」に、フクギの葉づたいに垂れてくる雨水を集 め、飲用水にしたという。単独のものがほとんどだが、なかには、これが数連つらなった ものもあったりして、その進化の過程がおもしろい。
この「トゥージ」の現代版ともいえるのが、スチール製の雨水貯水タンクだ。今ではどこ の島の家の屋根にも見られ、沖縄開発公庫では、このタンク設置促進のために、50万円 の融資をしているという。
黒島・竹富島・鳩間島・久高島などには、海底送水管が敷設され、水の豊富な島からの送 水を受けている。 沖縄では、1971年から82年にかけて、16か所の海底送水管を45億円かけ設置し たという。
幾つかの島には、その完工記念碑があるが、これをみると、ようやく水に不自由しなくな った当時の住民たちの喜びが伝わってくる。
また、よく、島の集落の中心には、「ガー」という、湧き水を中心とした水汲み場所があ るが、中でも宮城島の「上原のヤンガー」は、沖縄の石工の技術の粋をつくした立派な石 造建築で、その造形・規模とも圧巻である。
南・北大東島・渡名喜島・波照間島・粟国島には、海水の淡水化施設がある。このうち、 波照間島は、本来あった地下水脈が、あるプロジェクトによって破壊されてしまったため、 淡水化施設に依存せざるをえなくなったものである。
大抵の施設は、一日生産水量2−4 00トンであるが、このたび、北谷町にできた淡水化施設は、日本最大のもので、一日生 産水量40,000トンである。 さらに、宮古島などには、地下ダムがある。
こうして、古今にわたる沖縄の水にまつわる施設を見ていると、日本列島を、これら水に 苦闘した沖縄の島島に見立てれば、まさに日本列島の水事情なり水対策の縮図が、ここに あるように思われてくる。
水循環をめぐる各種提言
建設省では、平成9年6月に、建設大臣から「新たな水循環・国土管理に向けた総合行政 のあり方について」の諮問をうけ、平成9年7月より平成10年6月にかけ、水循環小委 員会において検討を重ね、平成10年7月に「流域における水循環はいかにあるべきか」 と題した中間報告書をまとめた。
この報告書において、健全な水循環を確保するためには、河川・流域・社会が総合的に対 応することが必要であるとし、次の5つの対応策をあげている。
(1)水を貯え育むため、森林・農地・緑地・氾濫原などでの、水の浸透・かん養能力の 増進、
(2)水を上手に使うため、節水・雨水利用・下水処理水再利用などの、水利用の 合理化、
(3)水を汚さずきれいにする、水質の保全・向上、
(4)水辺を豊かにする、 水辺環境の保全・整備、
(5)水とのかかわりを深める、地域ぐるみ活動との連携と、水 文化の保全
さらに、この報告書では、平成8年の阪神大震災で、身近な河川・水路などの水がなかっ たことが、初期消火・延焼防止にマイナスの影響を与えたとの教訓をもとに、「環境防災 水路」の指定などを、具体策として提言している。
これを受け、水に関する関係6省庁は、平成10年8月に「健全な水循環系構築」に向け た関係省庁連絡会議をもうけ、「水循環健全化推進大綱」の策定、「水循環再生会議の設 置」を中心とした、相互連携を開始した。
一方、毎年国土庁から発表される「水資源白書」においても、平成12年度版では、水循 環系の健全化の必要性を打ち出した。
ここでは、21世紀の水資源施策には、あらゆる面での総合化が必要であるとし、とくに、 水循環系構築のためには、流域の視点からの総合化が必要であるとしている。 そのためには、治水・利水・環境の施策の総合化と、流域関係者の一体化した取組みのも とに、総合的な流域マネジメントをはかることの必要性を訴えている。
さらに、厚生省では、平成11年6月、水道基本問題検討会より、「21世紀における水 道および水道行政のありかた」についての報告書を発表した。
ここにおいても、基本的視点の一つとして「健全な水循環への対応」をあげ、水道が水循 環系の有力な構成要素であるがゆえに、その取水や、水道水使用後の下水について、水循 環系を人為的にかく乱させないための社会的・環境的責任の伴うものであるとしている。
必要な、新たなパラダイム構築とアクションプランの提示
この様な提言面での活発な動きにもかかわらず、行政の現場での実際の動きは鈍い。
それは、これらの提言や問題意識の喚起によっても、循環的水利用の必要性を、教育的に 国民に認識させることはできても、そのためのどのような具体的行動を、行政・国民に起 こさせうるかについての、「新たなパラダイムに基づくアクション・プランの提示」にま で至っていないことによる。
新たなパラダイム構築の前提条件として考えられるのは、次の諸点である。
(1)日本には、そもそも、ソフト・ハードにわたる総合治水の考えはあっても、総合利 水の考えはなかったのではないか。
「水不足」という言葉に代表されるように、動かざる水需要にたいし、供給を合わせると いう、需要先行型(キャッチアップ型)のかんがえに、行政も住民もあったのではないか。
ここらで、ソフト・ハードを駆使し、水収支のミスマッチを是正する「総合利水」の考え にたった、諸策の充実をはかるべきなのではないか。
(2)環境的見地にたった水利用をはかるために、これまでの「流水の正常な機能の維持」 という、ミニマムの生態系維持条件確保の概念にかわり、能動的に流域生態系維持環境を 創造しうる環境的水利用の概念を、新たに構築する必要があるのではないか。
(3)水循環を考えるうえで、流域単位での総合的な水収支を考慮することは大切ではあ るが、水資源の需要地と供給地との距離の拡大によって、「あらゆる地域の単位 において、 水収支を考え、それぞれの圏域単位での収支を合わせる努力をする。」という視点が、稀 薄になっていることも事実である。
このことから、「大きい環のなかでの、遠くからの、水循環」「長い時間的スパンでの、 ゆっくりした水循環」において、水収支のミスマッチを総合的に是正していくとともに、 「小さい環のもとでの、身近の水循環」「短い時間的スパンでの、早い水循環」「生態系 の連鎖を可能とする範囲(エコ・トープ)での水循環」において、局地的な水収支のミス マッチを、こまめに是正していくことも、同時に必要なのではないか。
いわば、「大中小の範囲の環」「長短の時間的スパンの環」「生態系連鎖の環」が重畳的 に重なりあった水循環の環のなかで、それぞれの水収支のミスマッチを是正していくこと が、これから必要となるのではないか。
(4)上流の水資源に依存するための在来型のインフラ形成と、循環的水利用を可能とす る上・中・下流それぞれの段階におけるインフラ形成との間で、トレード・オフしうる資 源・財源の再配分がどこまで可能かを、今日的に検討しなおす必要があるのではないか。
以上の前提条件のもとで、循環型社会にふさわしい水循環系を構築するには、なにをポイ ントに、行動をしなければならないのか。
水をゴミとみなしてみれば-水の3R-
循環型社会構築のキーワードは、3R(Reduce−減量、Reuse−再使用、Re cycle−再生利用)である。
水の世界を、この3Rの視点で、いわば、水をゴミと見なし、見詰め直してみた場合、ど うなるのだろう。
(1)Reduce=水の減量
水の減量には(A)取水口なり蛇口ベースでの、水の減量(インプットの減量 )、
(B)汚染度の高い排出水の 減量(アウトプットの減量) の二つがある。
このうち、(A)は、いわゆる節水であるが、これには、「自主的な節水」と、 「強制的 な節水」の2種類がある。前者は、個人または企業・組織の社会的な節水意識にもとずく ものであり、後者は、行政判断にもとづく給水制限である。
日常生活では,トイレ・シャワーが、宅内水需要の大宗を占めるといわれ、これを、 在来型から節水型にかえることによって、大幅に節 水できるという。
ちなみに、国内T社の商品説明によれば、トイレの場合、節水型は、大洗浄8リットル、小洗浄6リットルで、在来型(13リットル)の半分となり、年間節水量 は、バケツ(4リットル)換算6,900杯分にあたるという。
さらに、節水型シャワー・ヘッドは、在来型に比し、15%節約可能で、これは、4人家族で、年間バスタブ122杯分の節水量 となるという。
アメリカでは、1992年、Energy Policy Act(EPACT法案)により、シャワー、トイレ、バスタブなど、水まわり諸設備それぞれについて、毎分あたりの使用水量 を規定した。
アメリカにおける家庭内水需要の内訳は、トイレ32%、洗濯機25%、シャワー20%、蛇口12%、食器洗い機2%と、トイレの水需要が、圧倒的な比重をしめる。ちなみに、日本の家庭内水需要の内訳は、洗濯24%、炊事23%、風呂24%、トイレ21%、洗面 など8%(平成8年東京都水道局調査) と,やや、アメリカと構成を異にする。
そこで、このトイレの節水に照準をさだめ、住宅の新築・改築にあたって、ULFT(Ultra Low Flush Toilet)という節水型トイレ(13リットルから6リットルへ節水)などへの取り換え推進を義務づけることとした。これに助成措置(リベート・プログラム-1戸建てか集合住宅か、一台目か数台目かによって、50ドルから100ドルの助成)を用意し、2,010年までに全米50州80%の設置を目標とする。ただし、現場では、これまで一回で済ましたフラッシュを数回やることになり、実際の節水効果 は、さほど上がっていないと、指摘する向きもある。
住宅・都市整備公団では、平成11年9月より,東京都西国分寺の2団地224戸において、超節水型(大洗浄6リットル-在来型9リットル、小洗浄4.5リットル-在来型7リットル)トイレの設置を試験的におこなっている。タンクを高くし、排水口径を大きくすることで、在来型と同等の洗浄力が得られたという。ちなみに、公団では、昭和60年代より、それまでの12リットル型を節水型に替え、現在は9リットル型のものを採用している。
、問題は、近年の洗浄機能つきトイレの普及であり、中水の普及しているビルでも、この洗浄用水については、従来通 り上水を使っているようである。
このほか、老朽水道管の更新による漏水防止も、見えない大きな節水となる。東京都の漏水率 は、1998年8.9%(漏水量換算1億5,000万立方キロメートル) 1999年7.6%であるが、これは1984年14.2%に比し、年々改善の傾向にある。
(B)は、事業所などの社会的な行動としての排出水の節水である。一例をあげると、日本IBM 野州事業所では、1997年から、超高純度脱イオン洗浄プロセスの排除と洗浄水の再生 利用によって、98万4,000立方メートルの節水を実現した。1998年のIBMの 世界各地の工場・研究所の節水量は、460万立方メートルに及ぶという。
(2)Reuse=水の再使用
いったん、一つの社会目的のために使用した水を、同一目的あるいは他の目的のために、 再び使用したり、本来、べつの用途のためにリザーブされている水を、他の用途に使うも のである。
(A)農業用水の世界では、番水(灌漑地域を適切に区分し、それぞれに限られた時間づ つ順番に灌漑するシステム)や、農業用水の反復利用は、これまでも慣行的に実施されて いるが、平常時においても適用しうるシステムが、今後必要になると思われる。
(B)事業所では、水の再使用により、ボイラー用水、製品処理・洗浄用水、冷却用水、 温調用水など製造各工程での回収率の向上をはかっているケースは多いが、ここでは、 「NEC九州」の例を見てみる。
「NEC九州」の工場では、半導体を生産しているが、地下水保全のために、使用する水 の99%を再利用している。 すなわち、設備の冷却水は、すべて再利用され、また、製造工程で使用の純水は、分別 回 収され、フィルターやイオン交換樹脂などを通し、再び、純水として使用している。
(C)雨水利用としては、さきの沖縄の例に見るような個人的取組みのほか、公共施設に おける大規模な雨水貯留施設の整備が、近年増えてきている。 (参考-東京都墨田区の雨水利用)
そのほか、雨水等の地下浸 透を促進させるため、透水性舗装、雨水浸透ますの整備、透水性の水路整備が必要となる。
(D)地下水のかん養や地中の保水機能の保持をはかるため、(C)による雨水の地下浸 透促進や、緑地・裸地・氾濫原確保による地下浸透促進策が、はかられる必要がある。
そのほか、「緑のダム」構想に見るように、水源地における植林により、山の保水力を高 める試みも、長期的なスパンでは、有効な手段となる。
(E)用途外または用途をまたがる水の利用として、発電用水やダムの堆砂容量 内の貯留 水の緊急利用、社会情勢の変化に伴う用途外水利用がある。
(F)海水の淡水化システムのこう矢は、1966年長崎県松島炭鉱池島鉱業所(このプ ラントは、いまだ稼働しているという。)にはじまるが、近年、逆浸透法(RO法)の技 術の発展により、より大量処理で、造水コストの低いプラントが、各地で出現している。
現在、日本で稼働中の淡水化プラントは、約50施設、一日当り淡水化規模11万立方メ ートルである。
このうち、日本最大のプラントは、先に述べた、沖縄県北谷町のプラント(日量 4万トン 生産水量、平成7年4月完成、総事業費347億円)であるが、これにしても、造水コス トは170円と陸水102円に比し.1.7倍(一日当り逆ざや272万円)と、まだ高 い。
また、10万トンの海水から4万トンの淡水をつくった後の、濃縮された海水6万トンの 環境的処理も課題となる。
プラント建設立地についても、海岸線近くに広い用地を確保しなければならず、それが 不可能の場合は、海水引き込みのためのパイプラインを、長距離敷かなければならないことなど、景観・環境。コスト各面 で、制約条件が多い。
今後、更なる技術革新により、これらの課題が解決し、また、低コスト化が進めば、在来型水資源に かわりうる安定水資源確保の最後の手段となることが期待されている。
(3)Recycle=水の再生利用
水の再生利用は、雑排水、汚水、雨水、公共下水道処理水、工業用水などを原水とし、中 水(上水道と下水道の中間という意味。雑用水ともいう。)をつくるものである。
中水道の社会的意義としては、(A)上水道使用量の低減、(B)下水道施設への負荷低 減、(C)非常用防災用水の確保、(D)節水型都市の形成、(E)都市型洪水の防止、 (F)水資源の有効利用、(G)地域水循環システムの再生 などがあげられる。
その再利用方式は、原水の種類によって、次のように分類される。(以下、須賀工業株式 会社の資料による)
(A)排水再利用方式−原水が雑排水、厨房排水、汚水である場合
(B)雨水再利用方式ー原水が雨水である場合
(C)排水再利用・雨水再利用併用方式ー
(D)広域循環排水再利用方式ー原水が公共下水道処理水、工業用水などである場合
また、中水利用の方式としては、次の三つの方式がある。
(A)個別循環方式ービルなどの建物内で、中水利用を行うもので、全体の6割がこの方 式
(B)地区循環方式ー大規模な集合住宅や市街地再開発地区などの複数の建物で共同で中 水利用を行うもので、全体の約1割がこの方式
(C)広域循環方式ー自治体主導で、一定の地域内の複数の建物において、広域的かつ大 規模に中水利用を行うもので、全体の3割がこの方式
水処理の方法として
(A)生物処理によるもの、(B)膜処理によるもの、(C)両者を 折衷したもの、があるが、
(A)は、建設費や造水コストは安いが、設置面積がかさ張り、 (B)は、設置面 積は少なくて済むが、建設費や造水コストが高い。
このほか、汚水の程度によって、これらの方式に、活性炭処理装置やオゾン処理方式が追 加される場合がある。膜処理の場合は、処理後に残された濃縮汚水の処理が課題となる。
中水の用途としては、水洗トイレ用水、散水用水、冷却・冷房用水、洗車用水、環境・修 景用水、親水用水、消流雪用水、清掃用水、洗浄用水、などがある。
日本における中水道設置は、昭和40年代後半からはじまり、各種公的支援措置が整い始 めた昭和54年ごろから、急速に設置数を延ばしている。
とくに、昭和53年に給水制限300日を記録した福岡県や、東京都での普及は目覚まし く、この両県で、全体の6割を占めている。
その一方で、福岡市など、中水道の普及が、中小建築物にまで及んできたことで、設置者 が過大なランニングコスト負担をしいられているケースも見られ、より広域化した低廉な 中水道システム実現が課題となっている。
また、中水道にかかわる諸制度・基準・指針などの明確化が求められている。
近年の先進的事例としては、恵比寿ガーデンプレイスの中水利用システム、幕張新都心の 中水道システムなどがあげられる。
近時の中水造水技術の進歩は目覚ましく、とくにRO法(逆浸透ろ過システムー低圧逆浸 透下水道高度処理システムなど)は、低コスト、大量処理にもかかわらず、ほとんど飲用 可能の水質にまで処理可能な技術も生まれている。
水のリサイクルーアメリカの動きー
では、水のリサイクルに早くから取り組んでいるアメリカの動きはどうであろう。
アメリカで、水のリサイクル=Reclamationに熱心に取り組んでいるのは、カ リフォルニア州とフロリダ州である。
ここでは、カリフォルニア州のアーバインと、フロリダ州のセントピーターズバーグの例を見 てみよう。
アーバインのIRWDの生産する中水は、飲用以外のすべての用途に使いうる水である。
IRWDのポリシーは、「水は、ただ、一度しか使われないにしては、あまりに価値のあ るものである。」というもので、何度も使うことが、本来の水の価値を発揮することにつ ながる、としている
行政当局では、2010年までに、廃水の40%を中水にリサイクルしようとしている。 中水の用途としては、公園・ゴルフコース・競技場の灌漑用水、そして工業水などがある。
1997年には、当地のカーペット・メーカーの染色用に、この中水が使われることにな るなど、中水使用の拡大によって、飲用水需要は、75%に低減した。
中水は、飲用のパイプと完全に分離され、配管されている。 今では、当地の水需要の20%をまかなっている。
セントピーターズバーグは、地下水が少なく、慢性的な水不足に悩み、一方、タンパ湾に 流れ込む水質は、年々悪化していた。
この二つの課題を一挙に解決しようと、19770年に、2020年を目標とした中水化 への取組みを始めた。
中水のユーザーとしては、9,000戸の芝生、46の学校、70の公園、6のゴルフ・ コースの灌漑用に使われている。
ここでは、中水は、灌漑用のみに使われている。 中水を灌漑用水に使う利点は、中水それ自体が、作物にとって必要な栄養素を持っている点にある。ただ、アゼレアなど特定の植物については、中水による灌漑は向かないため、「植物ごとの向き・不向き」の指導がされている。
中水の配水は「デュアル・ディストリビューション・システム」によって、飲用水とは完全に分離され、飲用パイプと間違えないように紫色の配管で行われている。
ここでの課題は、末端ユーザーサイドにおける、飲用と中水との配管の取り違えである。 当市では、1991年、両水道管の交差接続があったが、幸いこれによる健康上の被害者はなかった。しかし、アリゾナでは、1,850人の被害者を出した。 この対策としては、事故ある場合の逆流防止装置(電気のブレーカー的存在)が、配水の各段階で用意されることが必要である。
現在では、灌漑用水もふくめた非飲用水需要の半分が、中水によって、まかなわれている。
ところで、いま、アメリカでは、中水を飲用に使用出来るか、その場合、どの様な問題を検討しなければならないか、という議論が、さかんにおこなわれている。
中水を飲用にしようする場合、二つの方法がある。
ひとつは、中水を通常以上の水処理をした上で、貯水槽を経由せず、直接、飲用水道管に つなぐという直接使用であり、
もうひとつは、中水を一端、水系や湖・貯水地などに流し、通常の水道用水資源と混合したうえで、水道用水の取水口を通 じ、通常の水道水としての水処理をし、水道管を通じ配水するという、間接使用である。
前者については、中水を飲用することについての人体に与える長期的な影響についての検証がなされておらず、また、そのことへの偏見がまだ強い現在では、適用困難である。
後者の間接使用については、近い将来、実現の可能性が強い。 とくに、湿地に中水を流すことによって、環境改善をはたし、さらに、地下水かん養にもつながりうる。
ちなみに、フロリダ州ウエストパームビーチ市で実施が検討されている「湿地をベースとした飲用水への間接的な再利用プログラム」では、現在、パイロット・プロジェクトが実施されており、本来の給水源である湖の近くに作られた人工湿地に、処理後の中水を流し込み、これが地下浸透しつつ湖に流れ込むようにしている。
このプロジェクトの合言葉は、Reduce、Reuse,と,Recharge(再充填)を3Rとし、
(1)中水の再利用、(2)湿地の創生、(3)現存湿地の保護、(4)地下滞水層の再充填、(5)飲用水供給力強化、(6)水源の保全、(7)地域水資源に対する依存減、 を目的としている。
このプロジェクトの効果が実証されれば、干上がった湿地を利用し。ここに中水を入れ、湿地自体の持つ浄化作用を取り戻しながら、間接的な飲用水源として利用できることになる。 さらに、湿地復元によって、周辺の自然環境修復効果も期待できる。
いずれにしても、中水を飲用水として利用することは、人類にとっての水資源の最後の切り札となるが、ここ数年の内に、その夢が実現する日も近いといえる。
これからの水循環の課題
以上、循環型社会にふさわしいに水利用を実現するためには、これまでとは全く異なった、新しいパラダイムを構築し、そのためのアクションプランのもとに、行政も住民もNGOも、行動していかなければならない時代となった。
そのために考慮しなければならない諸課題は、次の点にあると考えられる。
(1)水資源インフラの再配分
水源地域における在来型の水資源インフラの構築が、環境問題との相克などにより、今後困難となる状況にあるとすれば、循環型社会にふさわしい水循環系のためのインフラ構築のため、新たな観点からの資源配分がやり直されなければならない。
その際、水源地域においての、より迂回した水循環をサポートしうるインフラは何か、水源地域に対する、これまでの下流域の過剰な水資源依存を軽減しうる、下流域にとっての新しいインフラは何か、などの諸点を検討しなければならない。
(2)水需要の硬直性を弾力化しうるサポート体制の整備
節水型都市づくりを、福岡・香川などの慢性水不足地域に限定することなく、あらゆる地域の都市づくりの標準規格とするための諸制度の整備が必要である。
さらに、トイレ・シャワーなどの節水型機器の普及については、民間メーカー・サイドが「節水型こそ標準規格であり、これを開発・普及することが、企業の社会的責任を果 たす道である」との自覚を持ちうるサポート体制を、前述のアメリカの1992年EPACT法案にならい、官民構築すべき時である。
(3)水辺環境・水生生態系を積極的に創造するための、新しい概念構築と意識改革
水系の環境生態系を安定的に保つことが、すなわち、良質な水質を確保しうる唯一の道であり、その為に必要な水を確保することが、社会的水利用の大きな柱となってくる。
これまで河川においては、低水時における河川機能の維持のため、正常流量 確保の要因の一つとして、景観・動植物の維持のための必要水量をあげているが、これは必ずしも「河川の水辺環境・水生生態系を総合的に構築しうるミニマムとしての水量 」という考え方に立っていない。
今日的な生態系維持の観点にたった、新しい概念の構築と意識変革が、この際必要である。
(4)新しい社会資本としての中水道整備が21世紀の課題
水源地域に対する下流域の過剰な水需要圧力をやわらげるためには、それに代替しうるオルタナティブが必要である。
下流域における中水道などの水循環を促進させるインフラ整備が、結果 として、飲用水に対する水需要を軽減化させることになる。
幸い、この分野における日本技術の進展には、めざましいものがあり、処理コストや水質面 での改善も、この数年の内に、著しく進ちょくするものと思われる。
下流域における新しい水資源インフラとして、中水道を整備することが、21 世紀の水問題を解決する大きな決め手となりうる。
(5)民間企業の節水努力に対し、インセンティブを
水の世界においても、ゴミの世界にあるようなデポジット制なり排出権的な考えも、あって然るべきではないのだろうか。
先に例にあげたIBMやNECのように、大量の節水を達成した企業に対し、なんらかのインセンティブがはかられる方途はないものだろうか。
例えば、「節水権」なる概念のもとで、節水達成企業は、この権利を取得し、この権利でもって、水源地域における植林が可能となるような制度のようなものが、創設されてしかるべきだ。
(2000年 9月 20日更新)
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