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晩秋のイメージ"防災"から"減災"への価値転換

(英語版は、ここ。)

今年の日本そして、世界の異常気象による各地の災害の多発は、われわれに多くの教訓をもたらした。

福島県を10数年ぶりに再び襲った大水害の原因は、内水によるものが、殆どだった。10数年前の災害で、幹線堤防は完璧なものとなったが、そこにつながる中小河川が、ポンプの未設置などにより、流れ込むに至らなかったための、水害だったというわけである。

一つを強化すれば、もうひとつの弱いところがやぶれる ― 。そのイタチごっこだったことを今年の水害は、われわれに教訓として与える。災害にたち向かえば向かうほど、思わぬ別なところで、自然からシッペ返しを受けるというわけだ。

過日、アメリカとドイツの実務担当者から氾濫原(遊水池)の利用についての話を聞く機会があった。

それによれば、これまで川の水路に少しでも近く堤防をつくっていたものを、川の流れからよりとおくに堤防をつくることで、川全体の災害に対するキャパシティを高めることが、今の課題であるという。

それには、これまでの何百年にわたる川の流れの変化を重ね合せ、その最大公約数の右岸、左岸に堤防をつくることにより、川のキャパシティを高めるのだという。

その結果、堤防の内側に広大な氾濫原(遊水池)ができるが、これをいかに、公的に利用するかが、これからの課題なのだという。


自然の力に合わせた柔軟な対応

自然と都市のイメージ いまや、自然の力を克服しようとするのではなく、自然の力にあわせ、柔軟な対応をしようというのが、世界の防災の趨勢であるようだ。

いわば、剛構造の"防災インフラ"をつくることをやめ、柔構造の"減災インフラ"をつくることで、先に述べたイタチごっこから逃れるという考えのようだ。

ここで、思い起こされるのは、埼玉県の「見沼田んぼ」の減災効果の実績である。

昭和33年9月の狩野川台風で埼玉県の芝川が氾濫した時、川口市・戸田市の浸水・水没を比較的軽度にとどまらせたのは、見沼田んぼが数日間ダム化し、約1,000万トンの水をためたことによるものだったという。

この結果、見沼田んぼの遊水機能が見直され、見沼田んぼの農地転用を認めない「見沼三原則」が生まれた。

防災から減災へとパラダイム・シフトした場合、付随して、色々なメリットが出てくることに気づく。

これまでの河川改修では、改修後、堤防の外側にオープンスペースが生れるが、柔構造の減災インフラでは、堤防の内側にオープンスペースが生れる。このスペースは、生産活動や生計に、ニュートラルな空間とならざるを得ない。ここに生態系空間としての利用価値が高まるというわけだ。

あるいは、生計に直結しない市民農園的利用も考えられるであろう。


緑空間あふれる河口都市の実現
これまで、日本列島の都市部に流れ込む河口部の殆どが、河川改修でせばめられ堤防の外側にできたオープンスペースに、都市的土地利用をすることで、住宅地などの都市部面積の拡大をはかってきた。

このパラダイム・シフトによって、全く異なった緑空間あふれる河口都市が実現するとしたら、これからの都市計画においても、これは革命的な価値転換となるのではないだろうか。

('98年11月 9日更新)


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