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渡り鳥のイメージ 環境軸は国境を越えて
今年も、干潟(ガタ)サミットが開かれる。全国の干潟や湿地を守るNGOが一堂に会してのイベントだ。

昨年は、折りしも諫早湾問題がブームの中での開催であっただけに、会の流れがエキセントリックになりすぎ、問題の本質を冷静にみつめた議論が少なかったのは残念であった。

今年は、もっと、「何故に、全国の干潟や湿地がネットワークを組む必要があるのか」の原点をみつめ、そのための活動をしてもらいたいものだと思っている。

全国の干潟や湿地が、生態的にネットワークを保つことによって、はじめて、生息地としての生態的機能を発揮できることを、NGOが内外共に、アピールしなければならない危機的な時期にきている。ラムサール登録湿地のみでは、生態系が守れないとしたら、非登録湿地がネットワークを組むしかないのだ。


野生生物の国際的回廊を確保

ひまわりのイメージ ヨーロッパ環境政策研究所が、1991年に発行した"Toward a European Ecological Network"を、財団法人・日本生態系協会が3年前に日本語に訳し、「エコロジカル・ネットワーク」と題し、発刊した。その副題として書かれたのが「環境軸は国境を越えて」という言葉である。

EU統合を前にして、大陸ベースで、野生生物の棲息圏を獲得しないと、生態系は守れない。そのためには、国境を越えての野生生物の回廊(コリドー)を確保しなければならず、そのための自然環境の修復と創造が、国を越えた規模でなされる必要があるというのが、この考え方である。

ひるがえって、日本において、この環境軸の考え方は、残念ながら、国内においても、まだ、緒についたばかりである。

山梨・神奈川・静岡の三県と環境庁では、富士・箱根・丹沢を、緑の回廊でつなぐ構想がようやく動き出した。

しかし、列島規模で、環境軸を構築するプランは、出されつつも、新しく策定される全国総合開発計画の中で、「もうひとつの国土軸」として位置づけられるようにいたっていない。

まして、アジア近隣諸国の野生生物の生息圏と日本の生息圏とをネットワーク化する「極東アジア環境軸構想」などは、まだ生まれる気配すらないのである。


日本の対応の現状
環境庁としては昨年末、次のような生物多様性保全のための試案を発表した。

すなわち、全国を十地域に区分するとともに1,486件の重要地域を公表し、区分・地域ごとの地域特性を重んじた動植物の保全策を模索しようとするものである。

この案は、生物の棲息域を点と面から確保しようとするものであり、日本列島の有機的な環境軸形成(生物棲息域の回廊形成)を意図するまでには、至っていない。

また、つい先日、一部新聞で報道されたように、環境庁は、日本の渡り鳥の飛来地について、シギ・チドリ・ガン・カモなどの飛来数と種類、地域特性、重要度などを目録化し、将来は、アジア関係諸国に働きかけ、アジアの重要湿地における目録作成にまで、つなげたいとのことである。

これを見る限りでは、いまだ、アジアの環境軸形成のための基礎データ集めの入り口までにも到達していないのが現状のようである。

諫早問題で、日本野鳥の会などが問題にしたのは、シギ・チドリ類が、どの程度、日本の干潟・湿地を渡り鳥の中継地として、利用しているかということであった。

東アジアから日本の干潟・湿地を経てオーストラリアにいたる壮大な環境軸が、国境を越えて構築されていることは、明白なのである。


環境庁がやるべき2つのこと
水辺のイメージ この問題に関して今、日本の環境庁にとって、やるべきことが2つある。

1つは、新しい総合開発計画のなかで、「もう一つの国土軸」として、環境軸をおり込み、そのために必要な環境インフラの構築をめざすことである。

もうひとつは、近隣アジア諸国のリーダーシップをとる意味で、「極東アジアエコロジーカルネットワーク」構築のためのフォーラムの設置、調査研究の予算化をはかることである。

日本の四季の変化を色どる主役は渡り鳥である。 渡り鳥のいない日本の四季は考えられない。そのためにも、アジアの環境軸の構築は、島国日本の責務となるのではないか。

('98年8月27日更新)



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