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島の夕日のイメージ 総合的な島嶼政策を
7月19日、長崎で、日本島嶼学会の設立総会があり、私も、その一員として参加してきた。

日本島嶼学会は、全国425ある有人島の、価値・現状・振興などを多面的・総合的・学際的に研究することを狙いとしたものである。これまで、島の研究は、民俗学的・社会学的・生態学的など、多岐に渡る分野からのアプローチがばらばらになされてきたため、必ずしも、ご本人たちが思い込んでいる程の成果を、あげることができなかった。

席上、国際日本文化研究センターの川勝平太教授が「今、私は、非常に興奮致しております」とのべたように、関係者にとって、この様な横断的な学会の設立は、永年の悲願であったようだ。

いま、世は辺境ブームであるようだが、渋沢敬三氏のバックアッブの元に、20年余、妻子と別居しながら日本の辺境を旅した宮本常一氏が、山階芳正氏の主催する島嶼社会研究会に参加したのが1951年であるから、47年ぶりで、宮本氏の意図した学会が設立されたという訳だ。

コーディネーターの長嶋俊介奈良女子大教授が、「我々研究者は、いわば飯のたねとして、島を研究の対象としてきたのだから、今度は、そのご恩返しをする番だ」とのジョークを飛ばしていたが、ある程度、真実を言い当てた言葉のように思えた。半世紀以上、研究の対象となること自体が、日本の島嶼政策の貧困さを、そのまま語っているからである。

離島振興法が成立してから40年余、果たして、これらの政策がどれ程の成果を上げたかについて、疑わしい面もある。むしろ、島をとりまく環境変化が、これらの政策転換のスピードよりも早かったという、うらみもある。


日本人は全てアイランダーズ

朝顔のイメージ 今必要なのは、定住社会としてのミニマムの条件を島が備えるために、なにをすべきかを、島定住の人々と共に、探り当てることである。

前記の宮本常一氏は、調査にはやる若い研究者を、こう、さとされたそうだ。

「島の人々を質問攻めにすることを止めよ。定住する人々と共に在れば、質間の答えは、自ずと語られてくる」と。したがって定住条件の模索も、住民自身の内発的な知恵と努力に待つことが必要だ。

同時に、多くの島が、優れた環境資産を有しているにもかかわらず、日々その損失にさらされていることに対し、定住者以外の人々がなにを成しうるかをも、模索することである。

さらに必要なのは、新しい観点からの離島政策へのアプローチである。学会参加者の中に、ゼロ・エミッション・システムの研究者がおられたようだが、これからの離島対策を考える上で、これらの関係者の方々は、大きな戦力になりそうである。ゼロ・エミッションを、キーワードとすることによって、多分野での政策展開が可能だからである。

すでに、宮古島・久米島などで、風力発電や、太陽光と風力とのハイブリッド発電などの、実用プラントが稼働している。

また、屋久島では、NIRAの調査構想として、「屋久島ゼロエミッションモデルからメタボリズム文明の提言書」をまとめたのを受け、島独自で「屋久島小さな地球村構想」を策定し、ゴミのコンポスト化、塩ビ・プラスチック系廃棄物の再資源化、クリーン・エネルギーの研究開発、EV車の導入、などの取り組みが進行中である。

また、さとうきび生産を補完しうる高付加価値型環境保全農業を、離島において徹底的に展開するための助成措置の拡大も、これからの大きな課題となる。

公共事業についても,離島におけるゼロ・エミッション型社会実現のためのインフラはなにかという観点にたっての、新しい社会資本形成も、課題となる。

関西学院名誉教授の大島襄二さんが、会の席上で述べられた「日本人すべてアイランダーズであるという自覚が必要だ。」との言葉は、すなわち「日本の島嶼政策の成功の可否は、日本列島全体の環境政策・地域振興策などの成功の可否につながる」との意味を指し示している。

('98年8月更新)



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