田園環境図書館
エコツーリズムってなに? 小林寛子著
(河出書房新社)(2002/7)(1,900)

元文化放送のアナウンサーである著者が、オーストラリアでエコツーリズムのコンサルタントやコーディネーターをつとめる実践体験の中で書いた、世界のエコツーリズムの現状と今後の展望である。

小林さんが実践の現場としているのが、オーストラリアの巨大な砂の島フレーザー島である。

この島は、1836年フレーザー船長が難破し、流れ着いたところから、この名前ができた。

島には、先住民であるアポリジニがすんでいたが、島自生のカウリ・パインという、まっすぐな木に目をつけた木材業者の島への侵入によって、これら、先住民族たちは、徐じょに島外に駆逐されていく。

その後、鉱石会社が島の砂の採掘を始めるにいたって、砂による島の美しい景観も失われていく。

著者が関係するリゾート会社が、石炭採掘跡地へを利用して、島へのツーリズム事業の進出を果たそうとしたが、環境保護団体の反対が起こる。

そこで、リゾート会社側は、地元や環境保護団体などの意見を徹底的に聴き、その意見を全面的に取り入れた計画を策定することで、ようやく、開発認可が受領された。

こうして、キング・フィッシャーベイ・リゾートは、環境の面から厳しいガイドラインの元で誕生した。

私のホームページでも、エコツーリズムの問題点については、「二つの国の二つのエコツーリズム」 でも述べたところであるが、筆者は、さらにおおきな問題点を、エコツーリズムについて、指摘している。

それは、グリーン・ウォッシングという問題である。

平たく言えば、グリーンという環境にやさしげに見えるイメージの元に、本来環境に対峙するものも、洗い流してしまう−ロンダリングしてしまう−という、近頃の傾向に対する警告である。

ツーリズムとて、例外ではない。

エコ・ツーリズムは、いわばツーリズムのグリーン化である。

しかし、マス・ツーリズムが後退した現在、いかにまがい物のエコ・ツーリズムが多いことか。−このことを著者は憂慮しているのである。

本物のエコ・ツーリズムが日本に定着するために、著者は、エコ・ツーリズムを支える5つの役者が必要であるといっている。

その5つの役者とは

1.地域住民−地域資源がメリットとなって帰ってくるという保障がなければ、地域住民の協力は得られず、したがって、エコ・ツーリズムも成立しない。

2.研究者−地元の大学や研究機関の人材の協力がなければ、価値ある地域資源を見つけ出すこともできないし、その地域資源の利用の方法もわからない。

3.行政−法規制、ガイドなど人材の養成、ハード施設・インフラの整備、融資などの助成措置の用意、地域資源の持続的利用のための地域計画の構築など、行政の協力は欠かせない。

4.旅行業者−他のマスツーリズムとの差別化、ブッキング体制の確立、環境負荷軽減のための入りこみ客制限など、旅行業者の理解と協力が必要である。

5.旅行者−真のエコ・ツーリズムへの選択眼を持った旅行者の存在が、そのエコ・ツーリズムのスポットを価値あるものにせしめ、割高になりやすいエコ・ツーリズムへの投資への理解が可能となる。

本書は、このほかに、「エコ・ツーリズムの世界事情」として、世界の代表的なエコ・ツーリズムのスポットの紹介や、各国のエコ・ツーリズム戦略についても紹介しており、そのまま、エコ・ツーリズムのガイドブック的な役割をも果たしている。

そのいくつかのスポットについて、ウェブページへのリンクを試みたい方は、私のホームページの政策データベース「リンク集・世界のエコ・ツーリズム」http://www.sasayama.or.jp/diary/ecotourism.htm にほとんどのスポットがリンクされているので、アクセスをされてみるのもよいだろう。

その中で、本書の137−161ページにかけての「エコツーリズムの可能性」について書かれている、各種の事例について、印刷媒体の本書ではできない、リンクを以下に試みてみるので、それぞれの事例についてアクセスしてみるのも、リアルで、印刷媒体を眺めているより、数倍面白いだろう。

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1.自然保護とエコツーリズム

A.森林を守る
コスタリカのモンテベルデ・グランドフォレスト自然保護区
http://www.cct.or.cr/monte_in.htm

B.絶滅危惧種の野生動物を守る
ネパールのロイアル・チトワン国立公園のトラを守る
http://www.elitenepal.com/hotel/cjl/

C.自然の再生を目指して
西オーストラリアのペロン半島のエデン計画
http://www.edenproject.com/


2.地域づくりとエコツーリズム

A.ナショナルトラスト運動
湖水地方
http://www.nationaltrust.org.uk/main/placestovisit/north_west.html

B.農村観光
エセアット(ECEAT)の活動
http://www.eceat.org/

C.都市型エコツーリズム
カナダのグリーンツーリズム協会の活動
http://www.greentourism.on.ca/indexflash.html


3.環境教育とエコツーリズム

アメリカ・カリフォルニア州のヨセミテ・インスティテュート
http://www.yni.org/yi/
ヴィクトリア州クイーンズクリフのマリンセンター
http://www.nre.vic.gov.au/mafri/discovery
オーストラリア・フレーザー島のキングフィッシャーベイリゾートの
ジュニア・エコレンジャー・プログラム
http://www.google.co.jp/search?q=cache:6aomEDytBj4C:www.
btr.gov.au/conf_proc/ecotourism99/Section_6.pdf+kingfisher+
bay+resort+junior+eco+rangers+program&hl=ja&ie=UTF-8

ハワイ・パシフィック・ホエールウォッチング・ファンデーションのホェール・ウォッチングツァー
http://www.mauibound.com/whalewatching_maui_pwf_pacwhale.html


4.先住民カルチャー復活と自立のためのエコ・ツーリズム

A.マヤインディアンの暮らしを知る
トレド・エコツーリズム協会
http://www.southernbelize.com/tea.html
プンタ・ゴルダのエコツーリズム・ワークショップ
http://www.checflorida.org/top.html

B.オーストラリア・アボリジニの暮らしを知る
マニアルック部族の暮らし
http://www.northernexposure.com.au/manny.html
イギリスのツーリズム・コンサーンの活動
http://www.tourismconcern.org.uk/


5.ボランティア活動とエコツーリズム

オーストラリアのコンサベーション・ボランティア・オーストラリアの活動
http://www.conservationvolunteers.com.au/index.asp
ハワイのFWSのオーシャニック・ソサイテイの活動
http://www.oceanic-society.org/pages/alltrips/trip30.html


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最後になるが、著者が冒頭に引用しているレイチェル・カーソンが書いた「センス・オブ・ワンダー」の中の一節を、私も引用しておこう。

If I had influence with the good fairy who is supposed to preside over the christening of all children I should ask that her gift to each child in the world be a sense of wonder so indestructible that it would last throughout life, as an unfailing antidote against the boredom and disenchantments of later years, the sterile preoccupation with things that are artificial, the alienation from the sources of our strength

もしも私が、すべての子どもの成長を見守る善良な妖精に話しかける力をもっているとしたら、世界中の子どもに、生涯消える事のない、「センス・オブ・ワンダー=神秘さや不思議さに目を見はる感性」を授けて欲しいと頼むでしょう。
 この感性は、やがて大人になるとやってくる倦怠や幻滅、わたし達が自然の力の源泉から遠ざかること、つまらない人工的なものに夢中になることなどに対する、変らぬ解毒剤になるのです。

I sincerely believe that for the child, and for the parent seeking to guide him, it is not half so important to know as to feel. If facts are the seeds that later produce knowledge and wisdom, then the emotions and the impressions of the senses are the fertile soil in which the seeds must grow. The years of early childhood are the time to prepare the soil. Once the emotions have been aroused ・a sense of the beautiful, the excitement of the new and the unknown, a feeling of sympathy, pity, admiration or love ・then we wish for knowledge about the object of our emotional response. Once found, it has lasting meaning. It is more important to pave the way for the child to want to know than to put him on a diet of facts he is not ready to assimilate.

「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではないと固く信じています。子どもたちがであう事実のひとつひとつが、やがて知識や知恵を生みだす種子だとしたら、さまざまな情緒やゆたかな感受性は、この種子をはぐくむ肥沃な土壌です。幼い子ども時代は、この土壌を耕すときです。美しいものを美しいと感じる感覚、新しいものや未知なものにふれたときの感激、思いやり、憐れみ、賛嘆や愛情などのさまざまな形の感情がひとたびよびさまされると、次はその対象となるものについてもっとよく知りたいと思うようになります。そのようにして見つけだした知識は、しっかりと身につきます。消化する能力がまだそなわっていない子どもに、事実をうのみにさせるよりも、むしろ子どもが知りたがるような道を切りひらいてやることのほうがどんなにたいせつであるかわかりません。


If a child is to keep alive his inborn sense of wonder without any such gift from the fairies, he needs the companionship of at least one adult who can share it, rediscovering with him the joy, excitement and mystery of the world we live in. Parents often have the sense of inadequacy when confronted on the one hand with the eager, sensitive mind of a child and on the other with a world of complex physical nature, inhabited by life so various and unfamiliar that it seems hopeless to reduce it to order and knowledge. In a mood of self-defeat, they exclaim, "How can I possibly teach my child about nature ? why I don’t even know one bird from another!"

生まれつき備わっている子どものセンス・オブ・ワンダー(sense of wonder…自然の神秘さや不思議さに目を見張る感性)をいつも新鮮に保ち続けるためには私たちが住んでいる世界の喜び、感激、神秘などを子どもと一緒に再発見し感動を分かち合ってくれる大人が少なくともひとりそばにいる必要があります。

Rachel Carson "A SENSE OF WONDER"




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