田園環境図書館
アップサイジングの時代がくる

グンター・パウリ
朝日新聞社(2000年7月)
(1,700円)

 

 

環境化実現へのシナリオが、変わりつつある。

環境に資するため、ひたすら純化路線を辿ったのが、これまでの環境化の歩みであった。

生産から消費の過程で、そのエンド・オブ・パイプ(順工程)の最終に出てくる廃棄物を、なんらかの格好で、ひたすら排除しつくすというのが、これまでの環境化であった。

すなわち、3R(リデュース-減量化-、リユース-再利用-、リサイクル-再生利用-)または、6R(3Rに加え、リフューズ-いらないものは、使わない、リフォーメーション-環境基準にあわせた生産物、リデザイン-環境汚染物質を使わないデザイン)のかけ声のもとで、廃棄物を廃棄物として認め、純化していく、あるいは、よりクリーンな生産工程や環境効率性を、企業として、ひたすら追求していく、という動きである。

しかし、その結果として、どのような問題解決がはかられたのか。

3R追求は、その企業内、あるいは、その生産工程の中では、環境化は実現したにせよ、3R実現の過程においては、そのための過剰なエネルギーの放出と処理コストを、社会的な負担のもとに、生み出しているに過ぎなかった、との反省も、見られるようになった。

一国・一企業・一産業の中での過度の環境純化は、思わぬところで、資源の浪費をまねいている。

その一例として、著者は、環境配慮型と称する洗剤の例をあげている。

この洗剤の製造に必要な脂肪酸は、ココナツとヤシの油から抽出される。

この抽出の量は、ココナツやヤシのバイオマスの5%未満を使っているに過ぎないという。

95%もの膨大な未利用廃棄物が、生産国に残されているのだ。しかも、その生産拠点は、「良識ある環境派知識人」によって得意げに環境配慮型洗剤が使われている先進国市場から、数千マイルも彼方にある。

従来型のLASという石油化学系の原料使用率が、100%であることを考えると、膨大な廃棄物を生産地に残すという意味では、どちらの洗剤が環境配慮型なのかと、著者は疑問をなげかけている。

中核企業(コア・ビジネス)だけの環境化や、外部調達(アウト・ソーシング)による環境化では、真の環境化はできない、というのが、著者の主張である。

もちろん、環境化の第一段階では、3Rも、逆工場も必要であった。

しかし、そのパラダイムが行き詰まりを見せている今日、第二段階として、我々は、第一段階の環境化をも包摂しる、新たなパラダイムを構築しなければならない。

そこで、著者が提言するのが、産業クラスターの形成によって、独立型事業体ではなし得ない、廃棄物の生産財としての徹底利用と、その結果 としてのクラスター総体の総合生産性の高度化である。

具体的に、一次産業関連と、二次産業関連、二つの例を見てみよう。

アフリカのジンバブェでは、ホテイアオイの異常繁殖に悩まされている。

川や湖をうめつくし、航路を妨害するホテイアオイを除去するため、農薬を散布したが、結果 は、水質の悪化と水生生物の死滅であった。そこで、このホテイアオイを乾燥し、これを菌床とし、キノコを栽培しては、とのプロジェクトがうまれた。

これによって、環境を悪化させていたホテイアオイが、経済財となり、地域住民の所得と雇用の場の拡大に寄与した。

もう一つは、デンマークのカロンボー工業地域の例である。

ここでは、ある工場の廃棄物を、20キロ以内にある別の工場に輸送し、統合された各プラントと中間の物質分離生産ユニットによって、残留成分を他の産業にパイプ輸送するように設計されている。

ちなみに、ここでは、(1)石油精製プラントの排出する、硫黄を硫酸プラントへ、ガス・冷却水、排水を石炭火力発電へ、ガスを石膏ボードプラントへ、送り込み、さらに、(2)石炭火力発電の排出する、熱を5,000世帯の地域暖房に、蒸気を製薬会社プラントへ、熱を魚の養殖場へ、石膏を石膏ボードプラントへ、焼却灰をセメント会社プラントへ、送り込み、(3)製薬会社プラントの排出する、スラッジを農場の肥料として、酵母を農場の家畜の飼料として、それぞれ、おくりこんでいる。

これによって、廃棄物の一掃と、競争力ある事業体の実現が果たされている。

ここで、著者は、産業クラスター形成による「六色の革命」を提唱している。

第一は、第二次「緑の革命」である。

第一次緑の革命は、米・麦など、食料増産に大きな役割を果たしたが、その基本的条件が、行き過ぎた灌漑や肥料の多使用で、崩れつつある。第二次緑の革命は、セルロースの使用を中心とした産業クラスターの形成である。

第二は、キノコによる「茶の革命」である。

上記のホテイアオイの例に見るごとく、発展途上国の廃棄物を菌床とすることで、キノコを中心とした産業クラスターが、比較的容易に形成される。

第三は、ミミズを中心とした「赤の革命」である。

ミミズは、土壌の改良のほか、重金属を含む土壌の浄化にも役立つという。

第四は、魚の養殖による「青の革命」である。

これは、現代の抗生物質漬けの養殖ではない、自然連鎖を模倣した、魚の複合栽培である。

第五は、ウェルウィッチという植物をもって、砂漠化を防ごうという、「黄の革命」である。

この植物は、霧があれば生きられるということで、温度差があり水蒸気の流れ込みうる地域での緑化に役立つというものだ。

第六は、産業クラスター化により廃棄物から利益(黒字)を生み出しうる、「黒の革命」である

以上が、著者のいう産業クラスターによるゼロエミッション化と、雇用創出の実現構想である。

私自身も、産業クラスターによる地域振興策について、オピニオンで、かって主張した経緯がある。

そこで共通するのは、これからは、生産工程合理化のための「ショートカット創出の時代」から、廃棄物を完全に原料 使用するための「迂回化模索の時代」、「単独企業での独立生産の時代」から「複合企業群による原料相互補完供給の時代」、「ダウンサイジングによる雇用削減の時代」から「アップサイジングによる雇用創出の時代」、を、産業クラスター化によって実現する時代になったといえる。

筆者は、国連大学学長顧問として、愛知県にも長らく駐在した経験もあってか、産業クラスター化によるゼロ・エミッション構想を、「トヨタかんばん方式」になぞらえ、産業クラスターの中での、原料・中間物・製品の「ジヤスト・イン・タイム」(JIT)を実現しようとしているのは、興味深い。

また、一方で、スタンピード(stampede)に、日本企業が、ISO1400の認証取得に走る熱病現象を、やや皮肉っているのも、知日家らしく、面 白い。

「リストラによって身軽になった企業が、日銀短観予測で、先行き見通しを楽観視し、その結果 、景気見通しが良くなったと喜んでいる政府関係者、そして、その背後では、累積する公的負担」、それと同じようなアウト・ソーシングによる見せかけの環境改善の現象が、日本の環境問題でもおこっているような気がする。

著者の幅広い洞察力に学び、真の環境化とはなになのか、を、本書によって、改めて、確認しなおす必要があるのではなかろうか。

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