田園環境図書館
日本経済グリーン国富論

三橋 規宏
東洋経済新報社(2000年7月)
(1,800円)


 

 

「グリーン国富論」という名にひかれ、取り寄せたが、筆者自身、まだ体系的な考えを持っているわけではなさそうだ。

減量(リデュース)・再使用(リユース)・再生利用(リサイクル)によって、資源の生産性をたかめていくとともに、社会資本の形成や民間投資、製品生産、サービス提供などのそれぞれについて、グリーン化を推し進めることによって、グリーン国富なるものを形成し、日本経済を再生させようというのが、筆者の「グリーン国富論」の 考えである。

筆者は、これから形成されるべき資源循環型社会を、一つの環境樹(エコツリー)に見立て、この環境樹を育てるためには、次の四つの要素が必要であるとしている。

第一は、環境樹の育ち向かうべき理念である。自然との共生、脱物質化、地球の限界などの諸課題についての共通 認識である。その基盤となる考え方として、(1)日本人が古来持っている「もったいない精神」(2)ゼロ・エミッションの考え(3)資源の生産性を四倍から十倍に引き上げようとする「ファクター4,10」(4)環境破壊の原因を根源までさかのぼって解決しようとする「ナチュラル・ステップ」(5)レスター・ブラウン氏主催の「ワールド・ウォッチ・グループ」の基本理念などをあげている。

第二は、資源循環型社会を構成する構成要素である。資源生産性、ネットワーク社会、グリーン・コンシューマーの存在である。

第三はこの資源循環型社会実現を可能とする支援部隊である。IT革命など技術革新、環境制度インフラの推進である。

第四は、資源循環型社会実現のための実行部隊である。グリーン化に目覚めた消費者、地域社会、企業の存在である。

 

グリーン化をキーワードとした日本経済再建のために、筆者は、次のことを強調する。

第一は、これまでのフロー中心の日本経済を、ストック中心のものにかえていくことだという。しかも、その形成されるべき財は、これまでの生産要素であった非デジタル財 (土地、労働、資本、原料)ではなく、デジタル財(アイデア、ビジョン、スピード、決断、実行力)であるという。

第二は、環境や資源制約を前提としていない現在の市場経済に修正を加えなければ、自律的な資源循環型経済は達成困難とし、そのためには租税構造の改変が必要であり、環境に負荷をかける経済行動(バッズ)に対しては課税強化、環境改善に資する経済行動(グッズ)に対しては、非課税か減税をすることが必要であるとしている。

このようなハード・ソフトの支援のもとで、企業・地域社会・消費者は、資源循環型社会実現のための具体的な行動をとることがせまられる。

第一に、企業は、ゼロエミッション化のために、六つの行動原則をまもる。

(1)再生可能な資源の消費については、再生されうる資源量のうちにとどめる

(2)再生不可能な資源の消費については、その資源を代替しうる再生可能資源の生産量 のうちにとどめる。

(3)廃棄物の放出は、自然界の許容限度内にとどめる。

(4)脱物質化を意図した経済活動と日常行動。

(5)地上資源の有効活用。

(6)環境コストの内部化と環境効率の高い市場経済の実現。

第二に、地域社会は、グローバルな視点に立ったローカルな活動を、行政の理解と協力を得つつ、実現していく。

ここでは、滋賀県の菜の花エコプロジェクトを例に、ディーゼル代替油を使った地域の取り組みを紹介している。

第三は、グリーン化に目覚めたグリーンコンシューマーの存在が、企業や行政を動かす大きな力になるとし、ヨーロッパにおける活動や、日本独特の企業に属する社員による活動として、白色度70の再生紙普及運動などをとりあげている。

 

以上が、筆者の掲げる「グリーン国富論」の概要であるが、一抹の物足りなさを感じないわけではない。

それは、公的領域におけるグリーン化の処方せんや、さらに地球公共財としてのインフラ構築のために各国がとりうるグリーン化行動計画の処方せんについて、ふれられていないことである。

いわば、もっと骨太のグリーン国富論を展開してもらいたかったというのが、率直な感想である。

私からいわせてもらえれば、非デジタル財としての、既存のインフラのグリーン化こそ、最優先に取り組むべき課題なのではないだろうか。

国そのものが、どうグリーン化に対応するかが、克服すべき大きな障害と見るのは、私だけであろうか。

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