田園環境図書館
グローバル経済が世界を破壊する ジェリー・マンダーほか
朝日新聞社(2000年4月)
(2,000円)


原著の題を日本語に訳せば、「グローバル経済に反対し、地方経済への転換を目指す立場」という意味なのだそうだから、この題の日本語訳は、それよりは、かなりセンセーショナルにつけられたものなのかな,とも思った。

しかし、中身を見たら、こちらの方が、それ以上に、ズバズバ、いろいろな角度から,我が地域の身の回りに押し寄せるグローバル経済の功罪を、見事にいいあてており、そこに爽快さすらおぼえる。
さすが,先鋭的(このごろは穏健路線をあゆんでいるというが)な環境団体「シェラ・クラブ」の共著にふさわしい。

著者は、グローバル経済の地域への浸透によって、地域は「目いっぱいの世界」に変革することを迫られてきたという。

そして、自らの経済制度を、この「目いっぱいの世界」にあわせるために,身の回りのあらゆる資源や生態系を、費消しつくすことになる。

さらに、そのための競争条件整備として、「競技場を平らにする」ために、グローバリゼーション対応の名の下に、自由化、規制撤廃、民営化が行われる。
その挙げ句の果ては、本来地域が持っていた自給能力や自治能力が、すべて奪われてしまうことになる。

本書では、これらの問題意識に基づき、15(原著では44)の観点から、グローバリゼーションの功罪を、問うている。

その主な視点をあげれば

1 グローバル経済への過度な期待や妄想を生み出させているのには、マスコミの怠慢が、影響しているのではないか。
  グローバル化から再び地域へ戻りうる、新たなパラダイムを、マスコミを含めた世の識者たちは、もっと、明確に提示する必要があるのではないか。

2 WTOなどの強力な国際協定の承認は、「各國の政府を、企業のグローバルな統治システムに従属させる状態」を、制度化することになるのではないか。
  
  そのことによって、議員のように民主的な選任過程で選ばれていない、国際官僚の手に、一國の決定権をゆだねてしまうことになるのではないか。
  
3 第三世界は、安全・環境規制が緩いため、工業国から輸入された危険な技術と製品が、第三世界の生産や消費に適した土着の技術や製品を、駆逐してしまっているのではないか。

  例えば、「緑の革命」は、米の増産には寄与したものの、長い間、虫害に耐えてきた現地の米の品種を、放棄させているし、トロール漁法などの近代漁業は、水産資源の枯渇をもたらした。

  さらに、第三世界で資源を取り出す過程が、大量の土壌腐植・砂漠化・水汚染・毒物被害・産業事故を生み出した。
  
4 「ウォルマート」にみられるような、グローバルな小売業の地域への進出は、結果 的に、地場の零細な小売業者を追い出し、地元の自治体の財政を悪化させ、さらに、競争相手が撤退した後の物価を、かえって、高いものとしている。

  などなどである。

これらの諸点を指摘した上で、著者たちは、健全なコミュニティに根ざした経済の再建こそ、これらグローバル経済の地域に残した傷を修復しうる、唯一の道であるという。

そして、ここでは、その具体的修復手段が、いくつか、述べられている。

この「グローバル経済とコミュニティ経済の対立」は、来るべき10年間の大問題となるであろうし、その対立は、政界再編をも促しうる、大きな潮流となるであろうと、本書はむすんでいる。

私自身も、この結論には、予感するものがあるし,また、後者のコミュニティ経済の立場を主張できる政党の必要性はかんじており、私自身もそのような政党が出現すれば,もろ手を上げて歓迎したい。

現に,今の日本の政治においても,ことあるごとに二つの立場の相違点が,政党の差を超えて,議員個人の価値観の差として,顕在化してくることが,よくあるからだ。

しかし,では現在の日本の政党の中で,コミュニティ経済を代弁する役割を果 たせる政党ガあるかといえば,お寒いかぎりである。

第一,政界再編を狙う対立軸自体が,やれ,憲法改正だなんだと,あまりに「そもそも論」に過ぎ,今日的でなく,おどろおどろしい。

55年体制の中で育ってきた政治家が、「反55年体制」を意識するあまり、ひねり出してきた対立軸だから、かくも、おどろおどろしくなってしまうのだろう。

日本におけるコミュニティ経済を代表する論客は,内橋克人さんあたりだろうし、榊原英資さんもその一人かもしれない。

また、噂される石原新党のキー・コンセプトも、「都市からの政治」を「地域と超地域のスタンスにたった政治」とよみかえれば,十分、その資格ありだろう。

本書が一つの触媒となって,これまでの7年間の政界再編とは違った切り口による、今日的なパラダイムにもとずく政界再編の動きがでることを、期待したい。


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