田園環境図書館
オランダモデル 長坂寿久
日本経済新聞社(2000年4月)
(1,700円)

「アメリカ・モデル」と「オランダ・モデル」とがあるとすれば、前者は、問題の解決を黒か白かの二値判断によって行い、後者は黒と白との間のグレーゾーンを積極的に認め、ここにある問題を ガイドラインによって解決しようとするものである。

 日本を含め、大戦後、多くの国は、前者のアメリカ・モデルによって、国の諸課題の解決に当たってきた。
 しかし、このような二値的解決手法によっても解決しきれない問題は、いわば、社会のオリとして、どんどん隠蔽され、社会の底辺にたまっていく。

 本書の例でユニークなのは、オランダの麻薬対策と売春対策だ。
 オランダでは、麻薬の常習が アルコールやたばこの常習と 同列に扱われている。これを「ノーマライゼーション」政策というが、麻薬の危害を最小限にとどめるため、麻薬の使用者を犯罪者と見なさず、病人と見なし、健康維持のための適切な医療サービスをほどこす。

 「飾り窓」で有名なアムステルダムの売春対策にしても、性のビジネスはビジネスと認め、一定の条件のもとに、一定の区画の中で黙認する事によって、社会悪が健全な社会の奥にまで潜り込まないようにしている。

 オランダモデルのもう一つの特徴は、「しなやかなモデル」であるという。
 それは「賃金雇用政策」に見られる。
 かってオランダ病といわれたオランダ経済は、1975年以降、急速な立ち直りを見せた。その奇跡をもたらしたのが、「ボルダーモデル」と呼ばれる改革モデルだ。

 労使協調し賃金抑制につとめた上で、フルタイム労働と パートタイム労働との 格差をなくすことで、パートタイム労働者比率を三八パーセントにまで、高めた。
 これによって、各人の人生の価値観に添った労働形態が可能となり、また、家族は共働きによって、二人分の所得を稼ぐのではなく、一.五倍の所得を稼ぐことで、生活優先を志向できるという、「コンビネーション・シナリオ」と名付けた政策モデルを作った。

 オランダモデルの第三の特徴は、NGO・NPOを、政府の認知されたパートナーとすることである。
 ここで紹介されているのは、國のODA政策に、NPOを正式に関与させることである。特に、NGOが実施する「共同融資プログラム」に、政府が予算をつけることによって、NGOが、実質、ODAの予算配分やプロジェクトの 選定に関与していることに、興味を引かれる。

 さらに、NGOに対しては、國より補助金が支給されつつも、政府の介入を得ることなく、自主的な運営がされているところに、特色がある。
 これらNGO・NPOの活動に対しては、CBFという名の、NPO格付け保証機関ともいうべきものが、厳しい評価をおこなう。このCBFの厳しい条件でのお墨付きが、結果的には、優秀なNPO・NGOの活動を、間接的に支援することになる。

 その他、本書では、オランダの環境対策が、法規制よりは紳士協定で実効をあげていること、英語取得者比率の高い事を利点として、国境を越えた活動をしている例などが、取り上げられている。

 このように、オランダシステムは、「超地域システム」「地域システム」「企業システム」「NGOシステム」が、有機的に一体となった、世界でもまれな、今日的なシステムとなっている。

 いわば「グローバル」でありながら、もっとも「ニッチ」であるオランダモデルに、日本は、いろいろな点で、学ぶべきことが多いはずだ。

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