田園環境図書館
ミュージアム国富論 塚原正彦/デヴィット・アンダーソン 著
日本地域社会研究所(2000年4月)
(3,300 円)
バブルの崩壊によって、これまでの、イベント型地域づくりの手法は、全て無力となった。

万博の地域振興効果についての地元の「おもわく」が、なかなか、ねらい通りにならないのも、これら時代の流れの中にあるからである。

本著では、イギリスの経済再生の原動力となったのが、ミュージアム産業にあったとし、それは、これからの一国の成長は「経済成長」にあるのではなく、「知の成長」にあるからなのだという。

ミュージアムを21世紀の成長を招くキーインダストリーとして位置づけるためには、ミュージアムそのものの考え方も、変っていかなければならない。

そのために、まづ「知のウエッブ(クモの巣)構造」を組み立て、その中に既成のミュージアムはもちろん、これまで、ミュージアムとは無縁と思われてきた商店街や、工場までをも組み込んでいくことなのだという。

本書によれば、1970年代のミュージアムは、モノ中心のミュージアム、1980〜85年のミュージアムは、建物中心のミュージアム、そして、1985年以降のミュージアムは地域ごとミュージアムに進化してきているという。

これら、「知の成長」を最大の目的としたミュージアムは、これまで以上に教育的使命を帯びることになる。

学校教育・社会教育・生涯教育・障害者教育などと、しっかり連携し、それら各種教育のオプションとしてのミュージアムでなく、各種教育の中核としてミュージアムを位置づけ、そのための人材の育成や内容の充実がはかられなければならないという。

ひるがえって日本の実情はどうか?

経済基盤の沈下は、文化の崩壊をも、もたらしている。

岩波ホールの閉鎖、セゾン美術館の休館、国立博物館・美術館のエージェンシー化、東京都知事選における、ミュージアム関連支出の是非についての争点化など、イギリスの方向とは、全く、逆の方向におかれているのが、日本のミュージアムの状況である。

文化インフラを、安易なイベント型地域おこしの発想にもとづく、市場経済依存型のものとしてきたツケが、バブル崩壊の今、一挙にあらわれた感じがする。

教育の市場化、文化の市場化は、この辺で考え直す時期にきているのではないだろうか。

そして、21世紀の「知の産業革命」の中核としてのミュージアム産業に、国の発展戦略として、取り組む時期にきているのでは、なかろうか。

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