田園環境図書館
風土工学への招待 風土工学研究会 編集
山海堂(2000年4月)
( 2,500円)
沖縄の南大東島は、沖縄県にあるが、その風俗は東京の大島、八丈島のものである。

大東神社のお祭りばやしも東京調だし、島の名物には、江戸前鮨ならぬ大東鮨がある。

ところが、その島一番の見晴台の屋根のみが琉球瓦なのである。
たしか、郵貯の簡易保険の還元施設のようだったが、公共建築物なのだから、ここだけ、沖縄調というわけなのだろう。

しかし、この島の開村の経緯をたった今知ってきたばかりの観光客にとってみれば、やや、配慮の足りない景観であるといっていい。

風土工学とは、これまで、ともすれば軽視されがちだった土木構造物の立地する風土の特性を考慮し、そのネーミングや、デザイン、機能をその土地の風土になじみやすいものにしていこうとするものである。

近年、「土木」というイメージが悪いため、大学の学科名などを変える動きがあるが、本書によれば本来、「土木」という言葉は、中国の「淮南子(えなんじ)」という書にある、「築土構木」に由来し、「人々が安心して暮らせるように聖人が、築土構木をほどこす」ことなのだという。

だから、「景観10年、風景100年、風土1000年」という息の長いスパンをもって、その地域の人々の安心をつくっていくものだという。

風土工学は、まづ、構築すべき土木施設のネーミングからはじまる。

その土地の歴史・地理・地名・民族などをいろいろな手法を駆使し、一つのキーコンセプトなり、アイデンティティ・ストーリーなどにまとめあげる。

その地域のイメージをまとめあげる場合、ジヨハリの窓という手法を使う場合がある。

すなわち、あるもののイメージには、
@自分も感じ、相手も感じるイメージ
A自分には感じるが、相手は感じないイメージ
B自分は感じないが、相手は感じているイメージ
C自分も相手も感じないイメージ
の4窓があるという。

この4窓分析をもとに、地域のイメージをまとめあげるという

ネーミングとデザイン・コンセプトがまとまれば、次は具体的な構築物のデザイン設計である。

本書には、各地で行われたデザイン例も紹介されている。

その中で、九頭竜川(くずりゅうがわ)・鳴鹿大橋は、「鹿の手引きによって水路が開けた」という鳴鹿伝説をもとに、ネーミングがされ、また、橋の形状も堰柱のデザインは鹿の体系をモデルにしたという。

今、公共事業批判の逆風の中で「PI」(パブリック・インボルブメント=住民参加)という手法が、建設省などで行われている。

まさに風土工学は、その構築物の立地する地域の人々の地域イメージのスリ合わせで、キーコンセプトを構築するPIの一過程でもあると思われる。

願わくば、この風土工学の手法が単純なネーミングやデザインの段階から、もう一歩飛躍し、地域の生態系環境機能を損なわないエコ・デザインの段階にまで進み、行われることを、今後期待したい。

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