田園環境図書館
さわやかエネルギー 風車入門 牛山 泉
三省堂(1999年2月増補再版)
( 1,600円)
沖縄の島歩きをしていると、いろいろな島で、いろいろな風力発電プラントを見る機会が多い。

久米島の、NTTの中継所電源用の、太陽光と風力のハイブリッド発電所、宮古島の、NEDOと沖縄電力が実証研究中の発電プラント、波照間島の沖縄電力の発電プラント、津堅島の揚水用風車プラント、そのほか、沖縄本島にも、いくつかの風力発電プラントがある。

そのいずれを見ても、まだ、風力発電に依存するには、相当の時間がかかるなと、正直、思っていた。

しかし、最近になって、日本列島にも、いよいよ、本格的な風力発電プラントが出現してきた。

昨年、自然エネルギー促進議員連盟が結成され、その議員連盟のメンバーと訪れた、北海道苫前町の20基の風力発電プラントの林立は、まさに、ウインド・パークの名にふさわしい、本格的なものであった。

本書の第一刷の発行が、1997年であるが、その後3年足らずの日本の風力発電の進歩には、目を見張るものがある。

そこで、本書は、第一刷に、補遺として最近の風力発電事情も書き加え、今回、再版したものである。

内容は、風の正体、風車の構造・メカニズム・種類・用途、世界や日本の風車の歴史、風車の経済性と環境問題、世界や日本の風力発電の状況、解決すべき風力発電を取り巻く環境整備……などから、なっている。

とくに、各国の風力利用の歴史や、風車の形の特徴がおもしろい。

また、日本にも、かつて、山田式という、優れた風車システムがあったこと
を知り、心強い思いがした。

本書によれば、風力の利用分野には、
(1)小規模かつ補完的分野(農林漁業など利用現場におけるスポット的利用) 
(2)中規模の利用分野(離島や辺地での電源など) 
(3)大規模発電への利用(将来のエネルギー供給の一翼を担うもの)があるという。
そして、これまでの(1)や(2)としての利用から、近年、急速に(3)の利用に向かって、事態が進んでいるという。

また、これまでの風車をつかった風力変換から、風車を用いず、静電界を利用したエネルギーの直接変換により電力を取り出す、EHD発電またはEGD発電の実用にむけ、開発が進められているという。

自然エネルギー促進議員連盟発足のとき、飯田哲也さんが、「もはや、風力は、これまでのキワモノの域から、脱した。」とのべられたのが印象的であったが、最近の動きをこうして見てみると、近年の風力利用技術は、まさに、ハイテクそのものである。

また、風車の大型化も進み、アメリカ・ハワイ州のオワフ島のMOD−5Bは、直径99mと、羽根を延ばしたジャンボジェット機の長さを軽く超えてしまう程の規模である。

こうして見ると、環境にやさしい、いいことづくめの風力発電のように見えるが、問題点もあるという。

第一は、騒音障害で、だいぶ改良されたとはいえ、とくに、夜間の静穏時には、音源が高い位置にあるため、かなり遠い場所まで、騒音が届くこともあるという。

第二は、電波障害で、金属性の羽根に反射した電波が干渉し、テレビにゴーストを生じさせる場合があり、これについては、風車羽根の材質を改良する必要がある。

第三は、景観への影響で、とくに風車の設置場所が、宮古島における岬など、風光明美の場所にあるため、風車のデザインや、威圧感のない設置場所などに、工夫をこらさなければならない。

第四は、野生生物への風車後流の影響であるが、これまでの例では、野鳥などが、風車に巻き込まれる事例は、比較的少ないという。

第五は、安全性で、台風時の羽根の破損や塔の倒壊、冬季の羽根に付着した氷片の飛散などが、懸念されている。

したがって、環境にやさしい風車といえども、その立地にあたっては、入念な環境アセスが必要というわけだ。

また、本書でも強調されているように、オフ・ショア(海岸を離れた、または、海上での風力発電プラントの立地)の方が、風況の点でも、また、環境面でも、日本には適地が多いという。

私の郷里出身の佐貫亦男先生は、航空工学の専門家であり、その延長線で、日本風力エネルギー協会会長をながらく、務められていた。また、趣味として、ドイツのカメラや道具それにアルプス歩きをこよなく愛する方であったが、数年前、惜しくもご逝去された。

その佐貫先生のご郷里の秋田にも、東北電力による本格的な風力発電プラントが、いよいよ稼働する。

泉下の先生も、さぞかし、「時代が変わった」と、喜んでおられることだろう。

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