田園環境図書館
里山を考える101のヒント (社)日本林業技術協会編
東京書籍(2000年2月)
( 1,400円)
私ごとで恐縮であるが、私の父が、戦時中、農林省に在職中、平地林伐採問題というものの当事者となったことがある。

太平洋戦争も末期となり、いよいよ本土決戦も間近といわれた時期に、明治神宮や日比谷公園などをはじめとした首都圏のあらゆる平地林を伐採し軍の燃料調達などに協力せよとの、軍部の命令があった。

そこで、これら平地林伐採により、どの程度の燃料増加に寄与するかを調べたところ、幾日分の足しにもならないことが判明し、父は、軍部の命令を拒否した。

結果、父は左遷され、私ども一家は、すでに敵機飛び交う、沖縄決戦間近い九州へ転居した。

戦争終結が、あと数か月遅れたら、今の神宮の森も、狭山の森もなかったというわけだ。

そんなこともあって、戦後の里山の移り変わりには、人一倍、関心を抱いていた。

本書は、そんな里山をかんがえる各界93人による共著である。

本書によれば、里山の存続をささえるのは、里山のもつ「用と美」であって、とくに、このうちの「用」の喪失が、現在の里山の存続を危うくしているという。

逆にいえば、いかに、今日的な里山の「用」を生み出すかが、里山存続の大きな条件となる。

数年前から、環境庁が里山の保全に熱心であるが、私が、その節、環境庁に申し上げたのは、「環境的側面だけでは、里山は守り切れませんよ。」ということだった。

本書の中にある、「現実の里山問題には、表面的な対策では克服できない根深さがあり、それを間違うと、里山保全ではなく、実は、単なる里山の終末処理をしているに過ぎない」との指摘には、考えさせられるものがある。

伝統的な里山の用としては、薪炭林、防風林、鎮守の森、屋敷林、落葉の燃料・草木灰・堆肥の原料としての利用、水田への刈敷(かりしき)、ドングリ・山菜・薬草・きのこの採取の場などとしての利用の他、古くは、古墳の飾り器を作るための燃材、「たたら製鉄」の燃料、鷹狩りの場としての利用もあった。

問題は、これら「伝統的な用」に代わる、「今日的な用」が、生み出されうるかということである。

本書によれば、腐葉土の需要が増え、その原料確保のため、落葉の採集が経済ベースにのりつつあるという。

そして、そのような採集業者が入り込んだ林は、管理も行き届き、環境林としての価値も高まりつつあるという、好循環にあるという。

これにならった今日的な里山の用を、あらゆる側面から、探っていくことが、里山存続の前提となる。

そのほか、バイオマスとしての利用も、燃料電池の普及が条件となるにせよ、将来、可能性もでてくる分野である。

さらに、税制・都市計画法、森林法、NPO優遇税制などの諸条件の整備も必要である。

とくに、本書で提言されている「里山保安林」の創出は、一考に値する。

杉・ひのきなどの人工林にも、施業を放棄した林が急増している昨今である。

それら対する対策をもふくんだ、総合的な対策が、今こそ、必要だ。

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