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21世紀型社会資本の選択 - ヨーロッパの挑戦 |
竹内佐和子 山海堂(1999年4月) ( 1,900円) |
本書の意図を一言でいえば、経済成長や景気刺激策のしもべから、公共事業なり社会資本整備を解放しよう、そして、地域内経済循環がたかまるような社会資本整備をすることによって、マクロの経済成長に貢献せずとも、その地域での豊かな社会経済生活の達成は可能だということに、もっと自信を持とう、そして、量から質への社会資本整備の価値転換をしよう、ということなのだろう。 そこには、著者のフランスを中心とした社会資本整備の手法についての経験が、大きく影響している。 フランスの社会資本整備の基本理念として、 (1)地域の多様性の重視と地域の競争力 (2)整備主体の多元化…国、地方、企業のパートナーシップ (3)総合化…異なる社会資本の総合調整 を掲げ、これによりより多元的、柔軟な発想による社会資本整備が実現されているという。 このため、中央から地方への、縦の方向での、非集中化と同時に、省庁間での、横の方向での、総合化によって、新しい形での社会資本整備をはかろうとするものである。 これらの経験から、著者は、日本の地方分権について、次のような問題点を提起している。 第一は、中央省庁と地方自治体側との折衝がインフラの単体ごとの決定に限られ、横断的な調整システムが欠けていること。 第二は、住民の利益を代表するような折衝の場がはっきり確定していないこと。 第三は、分野ごとの補助金行政を通じた形でしか、国と地方の対話の場がないこと。 第四は、インフラ相互の調整といった機能が、地方自治体の側に充分与えられていないこと。 これらの要因によって、日本では、地域のニーズに合った社会資本の供給ができていないと、著者はいう。 パートナーシップ型社会資本整備の手法については、私のホームページのオピニオン20で、ドイツのIBA方式について紹介しているので、御覧いただければ有り難いが、本書では、同様の手法である、フランスのSEM方式について触れられており、興味ぶかい。 フランスにおける社会資本の効果を監視する委員会としては、2つの種類の委員会がある。 第一は、経済効果監視委員会、第二は、環境影響監視委員会である。 第一の経済効果監視委員会は、プロジェクトの経済効果を、(1)直接効果(2)誘発効果(3)間接効果の三つの視点から判断する。 第二の環境影響監視委員会は、環境への影響を(1)建設前(2)建設中(3)建設後に分けて評価する。 著者は、これに比し日本では、公共投資の経済効果を、景気浮揚効果という、短期的視点でのみ分析され、地域への長期的な影響分析がほとんどされていないことに、疑問を投げかけている。 適切な公共投資の経済効果判断のためには、第一に、社会資本の種類に応じた事後的な評価指標と評価機関を設定する、第二は、第三者の評価母体を設置する、としている。 さらに、著者は、これからの社会資本整備に際しては、「地域経営」的な発想に基づく運営が必要であるとし、とくに、PFI方式など、官民連携のパートナー・シップ型社会資本整備にあたっては、公共サービスと民間サービスとが一体化した「パッケージ商品としてのインフラ整備」という考え方が、必要であるとしている。 ところで、著者は経済戦略会議のメンバーでもあるが、これらの考え方は、「21世紀の経済戦略」に充分反映されたか、やや、疑問である。 昨年の「生活空間倍増計画」においても、著者の「社会資本整備の総合化」の考え方が反映されれば、もっと、ユニークな提言が実現できたかもしれない。 ある省庁の、ある審議会の、ある日の議事録を見ていたら、委員の一人が、こう述べているのが、目についた。 「そちら(役所)サイドが書かれた文章に意見をいうだけでなく、もっと、私たちにも、提言を書かせてください。」 |
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