田園環境図書館
コミュニティ・ビジネス 細内信孝
中央大学出版部(1999年10月)
( 2,000円)
近頃、日本の各地で、その地域しか通用しない地域通貨を創設する動きがある。

「エコ・マネー」と呼ばれるもので、北海道栗山町や、草津市など全国で30程の町が、独自の通貨を創設しているという。

欧米では、「レッツ」と呼ばれる地域通貨など、2,500にも及ぶという。

また、一昨年、非営利法人法(NPO法)が、施行されたが、このごろ、「NPOが、ビジネスとしての事業活動を行う」という、いわば、「ボランティアと企業の中間領域に位置するもの」として、「コミュニティ・ビジネス」なるものが、注目され始めてきた。

これらの動きは、いずれも「地域というニッチな市場」で、地域と密着した経済活動を行うことによって、地域の内発的発展を目指そうとするものである。

グローバル・スタンダードなるものに翻弄された地域経済の、反乱ともいえる。

さらに、戦後日本の企業中心の社会が崩壊し、リストラなどで企業社会から解放された人々が、ようやく地域社会にもどり、自己実現をめざす新たな受け皿として、「コミュニティ・ビジネス」に注目していることも、一因としてある。

本書による「コミュニティ・ビジネス」とは、次のようなものである。

その活動を支えるものとして、(1)パトロン(後援者)(2)パートナー(3)サポーター(4)ファイナンス(バンカー)があり、
その効果としては、(1)自己実現(2)その地域特有の社会問題の解決(3)文化の継承・創造(4)経済的基盤の確立  がはかられることにあり、
その特徴としては、(1)住民主体の地域密着型ビジネス(2)利益追及を第一の目的としない適正規模・適正利益のビジネス(3)営利追及ビジネスとボランティア活動との中間的な存在などがあげられる。

本書は、これら「コミュニティ・ビジネス」を可能とする諸条件の整備として、行政・企業・市民との間を仲立ちする中間支援機関(インター・ミディアリー)という組織の設立が必要であるとしている。

この組織は、行政や企業と協力しながら、地域コミュニティの問題解決や生活の質の向上を目指して、専門家の派遣、知恵・ノウハウの提供、先進事例の紹介や外部ネットワークの紹介、コミュニティビジネスを学ぶための実習現場の紹介、補助金や資金の仲介といった業務を行う、という。

昨年、景気刺激策の目玉として注目された地域振興券が、地域通貨的な性質を持ちつつも、地域の内発的発展を促すまでに至らなかったのは、「エコ・マネー」のように、グローバル市場経済と隔離した形でのインセンティブで無かったため、地域内経済循環から中央の経済への、「漏れ(リーケージ)」を生じていた部分が大きかったことによるものなのだろう。

本書のスキームによる。地域通貨とコミュニティ・ビジネスとのリンクによる起業化へのインセンティブであったのなら、その評価なり効果は、もっと異なるものとなっていたに違いない。

今後、NPO法人が発展的に「コミュニティ・ビジネス」的な側面を持つようになれば、財政的に行政に依存することなく、自立的なコミュニティの中核母体として、行政のやれない領域や、行政の不得意の領域において、もっと独自の社会的な役割を果たすことができるのではなかろうか。

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