田園環境図書館
こんな公園がほしい−住民がつくる公共空間 小野佐和子
築地書館(1999年2月再版)
(2,000円)
私自身も公園の近くのマンションに、10年近く住んでいた経験がある。

春は桜、秋はくぬぎの落ち葉で、それなりの景観が楽しめた。
送ってもらったタクシーの運転手さんに、「いいところにお住まいで」等といわれ、気をよくしていたのも束の間、段々、公園なるもののアラが見えてくる。

第一、この公園は、その面積の大半は、野球場で、残りの面積のそこそこに、ありきたりの遊具施設と砂場、そしてラジオ体操の広場があるのみである日曜日しか使われない野球場を、なんで多用途に使わないのかと、ぶつぶつ文句をいいながら過ごしていた。

夜は夜で、公園のトイレをひっきりなしに利用するタクシーのアイドリング音、家に帰らない中高生の騒ぎ声、夏ともなれば、暴走族のかっこうのスタート地点と化す。

そんな、使い勝手の悪い、「公園」という最もみじかなオープン・スペースを、住民自身の手でつくりあげる過程を書いたのが本書である。

ここでは、7つの例をあげている。

東京都大田区「くさっぱら公園」は、ある日「公園予定地・立ち入り禁止」の立て札が立ったところから、「どうせ公園が作られるのなら、住民の意見を取り入れた公園を作ってもらおう」と、住民たちが「みんなでつくろう・ひろばの会」を組織し、区の公園課の職員たちと共同で計画案の策定にとりかかった例。

横浜市「長屋門公園」は、運営委員会の制度と設計者による聞き取り調査を、住民が積極的にいかした例。

武蔵野市「けやきの公園」は、住民が建築家に基本設計を依頼し、これを行政が受け入れ、実施設計から完成後の運営まで、住民・行政の協調関係のもとに進められた例。

世田谷区「ねこじゃらし公園」は、各種のワーク・ショップを通じて、住民と行政との意思の交流をはかりながら、住民の求める公園イメージを具体化していった例。

世田谷区「西経堂団地」は、公団団地のたてかえにあたって、21FFG(21世紀をめざす船橋未来グループ)の協力をえて、住民サイドにたった基本構想(住民案)を策定し、これを「まちづくり企画コンペ」に応募し、助成をえることで、行政側からの社会的認知をえ、この案を公団の「たてかえ計画」にいかした例。

横浜市「舞岡公園」は、住民が、雑木林の手入れ、谷戸のたんぼの稲作、藁細工などの農芸活動に積極的にかかわりあいながら、行政サイドの公園運営への、「補完的でもあり主体的でもある役割」を果たしている例。

そして、唯一の外国の例として、インドネシアのカンポンという、私有地を公共空間として融通しあっている例をあげ、筆者は、これこそ、まちづくりの原点であるとしている。

このうち、横浜市の舞岡公園には、わたくし自身にも思い出がある。

ここには、公園の建設に先立って、地元の有志により「まいおか水と緑の会」が、1983年、結成されていた。
この会は、谷戸の地形を利用し、谷地水田を、自らの手で復活させ、地元の子供達を中心に田植えから刈り取り、そして収穫後の餅つきなどのイベントを行っていた。

わたくしが現地を訪れたときは、すでに、その谷戸の上のほうに、それとはやや異質な、擬木の柵や、ベンチなどのある舞岡公園が、建設中であった。

働いていた「水と緑の会」の会員のかたに、上にできたこの公園の評価をきくと、「市の総合公園なので、わたくしたちにとってみれば、必要のない施設ばっかりなんです。」と、当惑したような答えが返ってきたのが、印象的であった。

だから、その後も、この谷戸地と公園のスペース同士の、相剋が生じていないのかと、気になっていた。

本書によれば、その後、「水と緑の会」を母体としながらも、公園利用者を中心として、別に「舞岡公園を育む会」が設立されているという。

しかし、会の性格は、「水と緑の会」が、純粋なNPOの会であるのに対し、「育む会」は、「公園の利用を、行政から指導される人々」の集まりである。
「自主性」という観点からいえば、財源の点も含め、この二つの会には、大きな差があるといわざるを得ない。

これらを、どう一体化し、公共空間の利用をはかっていくかが、今後の舞岡の大きな課題であるといえる。

舞岡をはじめとした、これらの例を見ていると、これは単に公園だけでなく、これからの行政とNPOとの協力関係を考えていく上で、様々な示唆を、我々にあたえてくれる。

また、提案型NPOの行政に果たす重要性や、さらには、提案型NPOを可能とし、それをサポートする「21FFG」のような、いわば、「NPOのNPO」的な存在(イギリスのグランド・ワークのような存在)の必要性についても、われわれに教えてくれる。

公共空間を創成し利用する主体としての住民・NPOの今後の活躍とともに、それに対応した行政側の対応の変革にも期待したい。

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