田園環境図書館
産業遺産 加藤康子
日本経済新聞社
(1999年1月)
(3,200円)
時代は、ローテクの「ものづくり」から「e−business」へ、そして、「会社人間」から「SOHO族」へと急速に衣替えしつつあるが、20世紀を去るにあたり、ここらで、今世紀の産業文化の来し方、行く末を、産業遺産を通して凝視してみようとしたのが、著書の意図なのだろう。

これまで、日本の産業遺産についての書はいくつかあったが、日本を含め、英・米・豪・独・北欧など、世界の産業遺産の現状について著わしたのは、本書が始めてであろう。
しかも、著者本人が、現地に行って確かめたものばかりだから説得力がある。

ただ、これはどういう訳なのか、各国とも鉱山中心の訪問記が中心であるのが、ちょっと惜しい。

私のホームページの「田園リンク」の中にも「イギリスのヘリテージ・パークを歩く」とのリンクがあり、イギリスのトラストが保存している、産業遺産のホームページにつながるようになっているので、興味ある方は、つないでみることをお勧めする。

さすが、産業革命の先頭を切った国だけあって、イギリスは、産業遺産の保存の面でも、世界の水準を抜きんでている。
本書においても、巻末に「イギリスのナショナル・トラストがプロモートしている産業遺産一覧」なる表が添付されているが、これをみても、蒸気機関、蒸気帆船、灯台、水力発電機、水車、印刷機械、風車など、保存されている産業遺産は、実に多彩である。

では、日本ではどうかといえば、鉱山跡地をマイン・パークに利用している例などは、各地であるものの、その多様性に乏しい。【日本の産業遺産については「日本の産業遺産300選(全三巻)」(産業考古学会編=同分館出版、1巻4,500円、2,3巻各5,300円)が詳しい】

しかし、農村部を歩いても、昔の土地改良の分水工の跡があるなど、結構、産業遺産の資源はゴロゴロ眠っているようだ。
もっと「発見の旅」をしなければならない。

北海道の奥尻島に行った節、赤と白に塗りわけられた箱形の灯台のあまりの美しさに息をのむ思いだったが、本書によれば、アメリカでは無人化の進んだ灯台の灯台守の家を利用し、「灯台ホテル」を作る例が増えているという。

日本でも、「灯台のヘリテージ・パーク化」は、検討してみてもよいのではないだろうか。

これら、産業遺産の影には、常に目に見えない主役達がいる。
そこにあるのは、冒険心に満ちた創業者達、自らをひけらかすことなく、技(わざ)をみがいた技術者達、常に新しいシステムに喜喜として立ち向かった労働者達の息づかいとざわめきである。

本書で指摘されているように、産業遺産を動態保存することで、これらのざわめきが、見学に来る子供達によって、再現できることになる。

新世紀への”ミニレアム予算”なるものは、これら”温故知新”の分野にも、おすそ分けすべきものだったのではないだろうか。

目次に戻る

HOME -オピニオン -政策提言 -発言- profile & open - 著書 - 政策行動-図書館-掲示板 -コラム- リンク- 政策まんが