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和の楽園−日本の宿 | 三好和義 小学館(1999年11月) (2,800円) |
5年前に亡くなられた日本の住まいの権威者・西山卯三さんが、「住居論」のなかで、「日本的なものとは、一体何か」ということについて、こんなことを書かれている。 日本の建築を見に来る外人さんを、どこに案内するかという場合、西山さんは、社寺建設や茶室や数寄屋造りなどでなく、都市の借家建設に代表される木造建築を案内するのだ、という。 それらの建築物こそ、日本人の生活に最も密着しているという点で、最も日本的であるとし、また、過去の建築技術の様々な遺産を、最も現代的に集積・継承しているからなのだという。 西山さんによれば、建築の世界に、近代建築が侵入した来たときに、日本の建築家は、「日本には、もっと、立派な日本的なものがある」との主張のもとに、社寺建築や数寄屋造りを持ち出し、「そこにこそ、日本人のとぎすまされた造形芸術の粋がある」とした。 しかし、日本人が、生来保有していると見られた、その「とぎすまされた造形芸術」なるものは、日本人の大多数とは何の関係もない、「反民族的」なものであったと、西山さんはいう。 では、本書のテーマである、日本の宿については、どうなのだろうか。 西山さんは、あえて、日本的な宿の建築のあり方については、言及されていない。 私の考えるに、宿は、日本人の生活空間のうちのハレの部分を、極大化した空間であるといえる。 すなわち、宿は、日本人にとって、居間の延長であり、客間の延長でもあるが、同時にそれは、居間の生活臭さを取り除き、客間のよそよそしさを取り払った、複合空間であるともいえる。 本書は、写真家である三好和義さんが、「和」を感じた宿なり宿周辺の修景を、30宿にしぼり、ファインダーで切り撮った写真集である。 創業300年の京都の宿から現代の世界的グラフィックデザイナー・田中一光さんの手がけた北海道・真狩村の宿まで、新旧さまざまな和が、この本によって楽しめる。 これらの空間が、「反民族的な和」なのかどうか、今は亡き西山さんには、問うべくもないが、ともかく、誰もが共感できる、30代の写真家が認めた、日本の和の集大成が、ここにある。 |
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