田園環境図書館
英国のカントリーサイド−幻想と現実 ハワード・ニュービー著
生源寺真一監訳

楽游書房(1999年10月)
(2,000円)
英国のカントリーサイドを走っていると、「農家貸します。農場貸します」の立て札が続けざまに飛び込んできて、はっと、我に返ることがある。
いづこも同じ厳しい農業農村の現実なのである。
「それほど、イギリスの農業・農村の現実は、甘くないよ」といいたいのが、本書の内容であろう。

監訳者の生源寺さんは、この度の農基法改正に、大活躍をされた方である。その生源寺さんが、1990年ケンブリッジ大学滞在時、出会った書のなかで、最も印象的だったのが本書の原著である「The Countryside in Question」だったとのことである。

これも奇縁であるが、私も、同じ頃、この原著を、ロンドンの自然誌博物館のミュージアム・ショップの図書コーナーで買い求め、以来、大袈裟であるが、座右の書にしていた。

この本は、イギリス放送大学で、1987年、30分番組、6回シリーズで放映されたものを骨格として、本にしたものである。だから、非常に具体的で分かりやすい。

生源寺さんも言っているように、著書の農業・農村に対する見方は、一言でいえば、複眼的である。

例えば、イギリスには、農業と環境の調和をねらいとしたESA(環境に敏感な地域)というゾーンが、設けられているが、この地域設定をめぐる環境保護側と農業側の”バトル”についても、その混乱ぶりを、どちらの側にもつかず、冷静に分析し、「美しい景観の維持と、利益をもたらす農業側の利害を一致させるためには、食料の値段が高くなるという犠牲を払うことについて、国民的なコンセンサスが得られることが条件となる」という、問題を提起している。

要は、バランスを取った政策の必要性を、著者は、訴えているのである。

著者は、農業・環境保全・農村経済開発の三者への支援をうまく組み合わせることによって、21世紀イギリス農業・農村の展望は、拓け得るとしている。

本書の訳は、生源寺さんのゼミの7人の生徒によったものだそうだが、その割に(といっては失礼だが)、訳もこなれていて、読みやすい。

ただ、残念なのは、いろいろの事情があったのだろうが、原著のアート紙・変形本のデラックスさに比べると、相当みすぼらしい装丁であるのが、気にかかる。

特に、原著では、写真を多用し、そのそれぞれに、適切なコメントがのっていたのが、日本語訳の本書では、これらがすべて、省かれてしまったのは、はなはだ残念である。
写真付きコメント付きの再出版を期待したい。

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