田園環境図書館
欧州連合(EU)の農村開発政策 井上和衛編
筑波書房(1999年4月)
(2,200円)
このたび、新しい農業基本法が制定され、その名を「食糧・農業・農村基本法」とした。

ここに「農村」の文字が入ったのは、農村地域の著しい過疎化、地域経済の衰退に対応するためには、単なる農業生産面からの対応では、不十分であり、農村地域への、地域政策としての面的対応が必要との認識からである。

その最初の政策として、中山間地直接支払制度なるものが、生れてきたが、これのみでは、農村地域の内発的発展を促すことができない。

中山間地直接支払対象地から卒業し得るシステムが是非とも必要であることを、私は、農林水産省に、たびごとに、言ってきた。
私は、早くから、ヨーロッパの農家民宿制度の日本的適用に取り組んで来たが、この際、必ず出てくるのが、本書の主要内容である、EUの「LEADER PROGRAM」である。私自身も、日本型LEADER PROGRAMを、早く作らねばと、内心思ってきた。

その意味では、新しい農基法成立にあたって、本書によって、EUの農村開発地域政策の全貌が明らかにされるのは、まさに、時宜を得たものである。

LEADERとは、フランス語で”Liason Entre Actions de Development de l’Economie Rurale”(農村地域での経済開発活動のための連携)の頭文字をとったものだそうだ。
LEADER事業は、1992年から1999年の第二期に入っており、約800地区で事業が行われている。
2000年以降は、第三期のLEADERによるか、あるいは、LEADER事業を含む、13のコミュニティ事業の再編によるか、不透明であるが、いずれにしても、農業政策から農村開発政策へのシフトは、避けられない時代の流れといえる。

LEADER事業の対象は、次のような活動に対してである。

第一は、農村開発のための技術支援、第二は、そのための職業訓練と雇用促進、第三は、農村ツーリズム、第四は、小企業、工芸会社や地域サービス、第五は、地域農林産物の市場開拓やマーケティング、第六は、環境及び住居状態の維持改善、である。

これらの目的に合致すると認められた事業プログラムについて、公共団体・民間団体・NGO団体からなるLAG(ローカル・アクション・グループ)という名のパートナーが、公募により構成され、これらが活動母体となって、プロジェクト達成に向かう。

これらの活動に対して、EU構造基金からの助成が約4割、各国よりの公費助成が約2割5分、残りを民間からの出資にたよることになる。

この事業のミソは、単なる上からの助成事業ではなく、地域住民の主体的参加によって、コミュニティ・公共機関・民間セクターのパートナー・シップをもとに、地域のニーズに促したイノベーションを、LAGという活動母体のもとで、果たしていこうというところにある。

では、日本型LEADER事業は、可能なのであろうか。

残念ながら、日本の農政の対象は、兼業対策にまで及んでいないし、相変わらず、上(おかみ)からの主導に基づく地域づくりが、まだまだ多い。

しかし、現在、中小企業の起業対策の中で、プラットフォームという概念の、起業基盤を作ろうという動きがある。
この過疎地域版のプラットフォームを作る中で、LEADER事業に似たものを、日本にもつくれる可能性はあると、私は思っている。

農村も起業化の時代である。
是非とも、本書をバイブルとして、農村地域再生の新たなパラダイムをつくりたいものだ。

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