田園環境図書館
潮間帯の生態学 アィヴィッド・ラファエリ著
文一総合出版(1999年9月)
(上3,800円、 下2,700円)
海岸部の海と陸の間の潮の満干に現れる部分(干潟など)を「intertidal」というそうだが、この適切な日本語訳を、ここでは潮間帯と訳している。

確か、西条八束(やつか)先生の本では「感潮域」と訳されているようだが、私個人としては、この「感潮域」のほうが、その場に生息する生物になったような気持ちで、ぴったりしているように思われる。

この前のコスタリカのラムサール条約締結会議でも、この「潮間帯」に関する決議がなされるなど、このところ注目をあびている生態系であるだけに、このほど、潮間帯の生態学に焦点をしぼった本書が出版された意義は大きい。

筆者によると、この潮間帯の部分は、陸上生物にとっては水に浸かる時間が長くなり、光が遮られることにより、また、海洋生物にとっては、空気に触れる時間が長くなり、乾燥化が進むことによって、両者とも常に環境ストレスを受けるところだという。

そして、それらの生物たちの間には、常に捕食と被食が繰り返されているという。
さらに、特定の動物の摂餌活動ために、特定の植物群落が、ガーデンとして形成されてくるという。
重要なのは、潮間生態系は、沖合生態系と、プランクトンを橋渡し役として、深く関わりをもっているということである。

潮間帯に生息する底生生物や底生海藻は、大量の幼生と繁殖子を生み出し、その多くは、沖合に流れ出るが、その一部が海岸に戻ってきて定着するという。

この帰ってくる幼生の定着数は、沖合のプランクトンの種類によって、大きく左右され、潮間帯の幼生を見れば、沖合の様子をただちに知ることができるほどの、生物指標になり得るという。

これまで、干潟が「海の生命の揺籠」といわれてきた生態学的根拠について、この本を読み、知ることができ、目を開かれる思いがした。

潮間帯は、いわば、陸にとっても海にとっても、人間の皮膚にあたる敏感な部分だ。

ここに、干拓や河口堰でもって、人為的な操作を加えることは、河口部のみならず、沖合の生態系にも、大きな影響を及ぼすことを、この本を読まれれば、実感できるはずだ。

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