田園環境図書館
環境の美学 勝原文夫著
論創社(1999年9月)
(2,800円)
勝原さんは、これまで、「農の美学」「村の美学」を、同じ出版社から、発表されていたが、これで、氏の三部作が、完成した。

氏は、景観と風景の違いについて、冒頭ふれ、景観は、視覚的な要素を重視しているのに対し、風景は、人間があらゆる五感(きれいな風景だけでなく、音や匂いなど)を積極的に駆使して味わうものであるとしている。

次に、著者は人間にとって安らぎを感じる原風景とは何かについて語り、心の深層にある原風景は、旅行者の安らぎから、定住者のそれへ、さらに、意識下では洞窟に安らぎをおぼえた人類の始祖の安らぎに通じるものであるとしている。

そこで、著者は、農村定住者にとっての安らぎとは、何によって生じるのかについて言及している。

それによれば、明治・大正・昭和を通じ、農村定住者がもっとも安らぎを感じたのが「秋の田」であったが、それはなにゆえかといえば、最も「用と美」の調和するものに、農村定住者は安らぎを感じたのではないかとしている。

それらのことから、ルーラル・デザイン(農村修景)に当たっては、施設などのフィジカルな面でのデザインと同時に、音や香りなど、ノンフィジカルな面でのデザインも考慮し、歴史的社会性と自然性を重んじた有用美と応用美の実現が必要であるとしている。

この本は、前二作に比べ、やや、時代の波に勝原さん自身、おされているような感じを、率直にいって受けた。

それは、今のウルグァイ・ラウンド以後の農村が、かつての農村の「張り」を、ほとんどなくしてしまっていることに起因しているのかもしれない。
氏のいわれる農村の「用」の部分が、ほとんど壊滅状態であるからだ。

新しい食糧・農業・農村基本法の大きなポイントは、地域政策として、農村の再建をどうはたすか、という点にある。
地域経済の内発的発展をどうはかりながら、そのなかで、農の用と美の調和をはかることが、氏の言う「農村定住者にとって安らぎある風景」実現への唯一の道なのではないだろうか。

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