田園環境図書館
イギリス緑の庶民物語 平松 紘著
明石書店(1999年5月)
(2,800円)
イギリスのアロットメントという名の市民農園は、いわば、自前の庭や菜園をもてない庶民のための、共同の緑のオープン・スペースであった。コモンズと呼ばれる、市民誰もが、色々な目的のために利用・アクセス可能なスペースも、同様の趣旨にもとづくものである。

イギリスでは、庶民の緑のオープン・スペース獲得までの道程は、長かった。
この、知られざるイギリス庶民の緑のオープン・スペース獲得に至るまでの歴史に焦点を合わせたのが、本著である。

一般的に、イギリスのコモンズは、貴族が労働者などのために、自らの広大な土地を、こころよく開放したがために生れたと信じられているが、筆者によれば、それはとんでもない誤解だという。

庶民が内なる楽園を求めて、王や貴族の土地にアクセスし、勝ち取ってきたのが、その真実だという。

コモンズへのアクセスの権利も歩く権利も、疑似的所有権獲得の変形として、生れてきたというのが、どうやら筆者の解釈のようだ。

興味深いのは、筆者が、この書のなかで、コモンズ保存協会とナショナル・トラストとの対立についても触れていることである。

ナショナル・トラストが、金をかけて保存しようとすれば、その金の収集方法が、たとえ庶民からの献金に頼ろうとしても、結果的にうまくいかなければ、結局は、自然を守ろうとする資金力のある金持ちに頼らざるを得ないことになる。

それに比べ、コモンズであればアクセスの方法さえしっかりしていれば、金をかけず、庶民がオープン・スペースを利用することができる、というものだ。

「利用は所有に、どうしても劣後してしまう。であれば、そのハンディを逆手にとってしまった方が、長期的には、自然を守り得る」というのが、この発想の原点であろう。

バブル期のリゾート資本に食いあさられた、オープン・スペースを抱える日本にとっては、なんとも耳の痛い話しではある。

日本においても、自然の保護・保存のみ重視し、アクセスを考えないやり方は、結局は、庶民から緑を遠ざけてしまうのではないかとの警告も、筆者は発しているが、同感できる点が多い。

自然に対する古来日本人の美風は、「使いながら育てる」という、共生の思想に基づくものであった。全国にまだある入会地も、そんな古来からの、日本人の知恵によるものである。

この本の示唆することを充分に組み込んで、21世紀日本の国民的共通資産構築の手がかりにしたいものだ。

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