デジタル音楽配信の可能性を探る
著作権法100年を記念し、1999年7月16日、芸団協(社団法人日本芸能実演団体協議会)主催により、「『実演家の権利』を考えるパフォーミング・デイズ」シリーズの一環として、「ネット創世記--デジタル時代の光と影」(当日の模様が「ASCII24」に載っています)と題したシンポジウムが、東京国際フォーラムで開かれ、笹山登生衆議院議員も、パネラーとして出席した。
司会は松武秀樹氏。笹山議員のほかのパネラーは、いずれもミュージシャンで、冨田勲氏、直居隆雄氏、笈田敏夫氏、向谷実氏の各氏であった。
席上、笹山議員は「今日は、ミュージシャンの間に、一人、ポリティシャンが挟まれて、すっかり浮いています」といいながら、次のようなことを述べた。
- デジタル音楽配信は世界的な時代の流れであり、日本もそれに対応した国家的な取り組みをすべきこと。
- MP3というデジタル・フォーマットと著作権侵害の問題とは、きりはなして考えるべきこと。すなわち、MP3を悪者扱いとするのは、時代錯誤であること。
- 著作権保護をはかりながら、MP3との共存共栄のもとに、デジタル音楽配信が、伸びる方策を考えることが、この際必要であること。
- アメリカにおいても、RIAAが対決姿勢を転換し、昨年末、MP3との共存共栄をはかったSDMI構想を発表したが、セキュリティーをどの程度までのものとするかは、これから検討すべき課題である。
アメリカのSDMI構想は、第1段階は「透かし情報」を埋め込むのみだが、第2段階では、音源よりのRipping段階でのセキュアにまで踏む込み、このためのセキュリティーを、機械メーカーをも巻き込んで、「デファクト」(事実上)の世界標準規格にしようとしている。
日本のJASRACが1999年6月発表した「DAWM2001」構想は、この第1段階の「透かし情報」の埋め込みのみに、言及している。
- この点で、席上、笹山議員と向谷実氏との意見は、食い違いを見せた。
向谷氏は、あくまで、100%著作権を捕捉しうるシステムを用意することが、演奏家の権利を保障することになるとしたのに対し、笹山議員は、次のような持論をもとに、主張した。
「演奏家のメリット=著作権が守られうる捕捉率×音楽フォーマットの規模の拡大率」なのだから、セキュリティーを完璧なものにすることにより、マーケットが縮少することになれば、結果として、総量としての演奏家のメリットは、少なくなることもあり得るのではないか。
したがって、第1段階の透かし情報の実効が上がるのを見て、利用者の「モラル・ハザード」に至るギリギリの段階まで、第2段階の実施は、様子を見た方がよいのではないか。
アメリカの関係者によれば、MP3の利用者のほとんどは、MP3を無料と考えているため、たとえデジタルマネーの普及による課金システムが整ったとしても、有料のMP3による音楽配信は、あまり経済的メリットがないという予測もある。
さらに、オンライン・ショッピングを利用する消費者のうちで、デジタル音楽配信を有料で利用する人は、全体の3%に過ぎないという、 調査結果もある。
レンタルDVDのセキュリティー強化規格「Divx」が、撤退した例もあり、セキュリティーを極限まで強化した場合、MP3市場がどの程度アーティストにとって魅力ある市場となり得るか、十分見極める必要がある。
また、SDMIの第2段階でのセキュア規格が、MP3やLinuxのような「デファクト」の世界標準規格となり得る保障はなにもない。
- 笹山議員は、さらに、来年の通常国会に提出が予想される、「仲介業務法」の改正について触れ、デジタル音楽配信と仲介業務法の改正とは、車の両輪となって、アーティストにとって魅力ある市場を拓く可能性があると述べた。
特に、笹山議員は、仲介業務法改正後、著作権管理団体の多様化が促進され、アーティストの選択の幅が増えることは、デジタル音楽配信にとって、好ましい受け皿が増えることにつながるとした。
また、今後、著作権管理情報などのデータ−ベース構築が、これらの管理団体の多様化の前提になるとし、これについては、国家共通ソフト・インフラとして、その構築について、国家的支援をする必要があるとした。
- 最後に、笹山議員は、この度7月6日よりMP3による、演奏家より直送するデジタル音楽配信を日本ではじめて開始した音楽グループ・テクノバンド「P−MODEL」の代表、平沢進氏のことばを紹介しながら、まさに、デジタル音楽配信の発展は、この例のように、ミュージシャン自身による、新産業や起業家を生む母胎になりうるとの励ましを、会場の出席者各位に送り、締め括った。
(1999.7.19)
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