笹山登生の発言・寸感アラカルト


2002年7月10日 「琵琶湖周航の歌」原詩探索の旅
我が家の庭の池にある睡蓮は、近くの沼の野生のものを昔、移植してきたものだ。

今年も、可憐な花をつけている。

睡蓮を、別名「ひつじ草」というのは、未の刻(午後2時)ごろに花を咲かせる朝寝坊の花の故のようだ。

ところで、有名な三高の歌「琵琶湖周航の歌」http://www.nagano-c.ed.jp/seiryohs/biwako.htmlのメロディーが、実は、吉田千秋が大正4年に「音楽界」誌8月号に発表した「ひつじぐさ」の曲だとわかったのは、千秋(1895-1919年)没後80年近くたった平成5年(1993)のことだった。(http://www.pref.shiga.jp/a/koho/ripple/vol15/tokusyu/index.htm参照)

新津市役所企画調整課梅田様のお話によると、この吉田千秋訳詞作曲の「ひつじぐさ」は、千秋が生れた新潟県新津市(旧中蒲原郡小鹿村)の「小合(こあい)合唱の会」によって、いまも歌われているという。(http://www.sasayama.or.jp/diary/hitsuji.htm参照)

「おぼろつきよの月あかり、かすかに池のおもにおち、波間にうかぶかずしらぬ、ひつじぐさをぞてらすなる」

という歌詞なのだが、これは、千秋18歳のころ、「Water Lilies」という英詩を翻訳し、雑誌「ローマ字」第8巻第9号(大正2年9月号)に掲載されたものだという。
では、この原詩の作者はだれなのか?

吉田千秋が入学した東京府立四中の後身、東京都立戸山高校の元教諭森田穣二さんの書かれた「吉田千秋「琵琶湖周航の歌」の作曲者を尋ねて」(新風舎.1997)によれば、原典は「E.R.B:Songs for our Little Friends、Frederick Warne & Co.London.1875」だという。

この歌詞は、次のようなものである。

Misty moonlight,faintly falling
O'er the lake at eventide,
Shows a thousand gleaming lilies
On the rippling waters wide

森田穣二さんによれば、ここでうたわれているスイレン(Water Lilies)は、昼過ぎに開花するスイレンではなく、やや蓮のように水面に直立し、しかも、夜に開花するNymphaea Lotusではないかといわれる。(参考− 英国のキュー・ガーデン(Royal Botanic Gardens,Kew)のNymphaea Lotus)(ちなみに、今津町で育てられ、さらに今津市から新潟・新津市へと贈られたスイレンは、Nymphaea Tetragona だそうである。)

森田さんの本によれば、ある方が、このWater Lilies の楽譜があるかどうか、人を介してBritish Museumにたずねたところ、贈られてきた楽譜は、まったく違った子供用の単純なものだったという。では、作曲者は、吉田千秋なのだろう。

しかし、それにしても、この賛美歌調のメロディーは、吉田千秋さんが、どのような音楽経験によって、感化されたものなのだろう。

大正1-5年あたりに、日本にどのような賛美歌が導入されていたのかも、大いに気になるところである。

あるいは、吉田千秋が一時療養していた茅ヶ崎の南湖院でのクリスチャンの高田耕安先生とのご交流にも興味がひかれる。

ここで明らかなのは、Frederick Warne & Coというのは、出版社の名前で、この出版社は、ベアトリックス・ポター(Beatrix Potter 1866-1943)が、1890年に初めての絵本「A HAPPY PAIR」をH.B.Pの名で出した出版社である。(http://www.penguinputnam.com/static/packages/us/about/children/warne.htm参照)

後に、1893年、ポターは、あの有名な「THE TALE OF PETER RABBIT」の初版本を書き、それを1901年に、私家本として、このFrederick Warne & Coから出版した。

余談だが、ポターは、Frederick Warne の三人の息子の一人Norman Warneと婚約するのだが、Norman Warneは、1905年、不慮の死をとげる。

では、この作詞者とされるE.R.Bとは、何者なのだろう。

インターネットの検索では、「ターザン」の原作者エドガー・ライス・バロウズ (Edgar Rice Burroughs)(1875-1950)しか出てこない。(http://www.kirjasto.sci.fi/erburrou.htm参照)

しかし、エドガー・ライス・バロウズが、子供向けの歌を作ったという痕跡はあるが、Water Lilies という歌を作ったということはでてこず、しかも、彼は、シカゴ生れであり、1875年出版との世代もあわない。

Water Lilies という名前の詩をかいているのはSara Teasdale(1884-1933)http://www.bonniehamre.com/Personal/Sara.htmの作詞したWater Lilies( http://www.classicreader.com/read.php/sid.4/bookid.1246/sec.82/ )があるが、歌詞は、まったく違うものである。。

ちなみに、この詩は、

If you have forgotten water lilies floating
On a dark lake among mountains in the afternoon shade,
If you have forgotten their wet, sleepy fragrance,
Then you can return and not be afraid.

というもので、しかも、Sara Teasdaleは、アメリカの人であり、1875年出版との世代もあわない。

さらに、森田穣二さんから、歌詞 Robert Nichols (1893-1944) 、作曲 Peter Warlock (Philip Arnold Heseltine) (1894-1930)による, WaterLilyという歌がCDでだされていることをお知らせいただき、確かめてみた。

この歌詞は、
http://www.recmusic.org/lieder/n/nichols/wl.html
にかいてあり、次のようなものである。

WaterLily
The Lily floated white and red
Pouring its scent up to the sun;
The rapt sun floating over head
watch'd no such other one.

このように、歌詞も曲も時代も異なるものであることがわかった。

私の個人的推測では、E.R.Bというのは、人の名前でなく、教育・リセツルメント(移民者教育)のイギリスでの機関名なのではないかと思う。たとえば、Education and Resettlement Britain または、Educational Records Bureau などといった機関名である。

この謎を解くカギは、やはり、出版社のFrederick Warne & Coにあると思う。

そこで、Frederick Warne&Co 社発売の本で、Water Liliesという名の本が発売されたかどうかをインターネットで調べてみると、古本のオークションのページに、それらしきものが見つかった。

http://www.angelfire.com/biz/STLBookFair/auction2002.html
によると、本の持ち主の名が鉛筆でかかれており、その日付は、1882年となっているという。

ぴったりではないか。

この本は、作者名 Mabel とされる10部作の内の一つで、そのそれぞれは、George Lambertによる24枚の絵がかかれているという。

10部作の本の名前は、1.Playmates 2.Mary Flowers 3.Harry's Jack-Daw 4.Moonbeam 5.Little Freddie's School Days 6.Water Lilies 7.Sunbeam  8.Bonnie 9.Grannie's Young Days 10.Smiles とのことである。

しかし、このWater Liliesという本が、単なる絵本なのか、歌の本なのかは、わからない。

オークション元にメールで照会したが、すでに、この本は、今年の4月に売れてしまったとのこと、残念。

例のE.R.Bなる作者名らしきものの解明も、まだである。
わたくしの「ひつじぐさ」原詩探索の旅は、まだまだ続く。



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