笹山登生の発言・寸感アラカルト


2001年1月19日 有明海の生態系異変を教訓にすべきとき




昨年の後半から、有明海の漁業者たちが、有明海の生態系の異変が、ノリ(海苔)の色落ち現象など、、漁業資源に与えている影響を重視し、諫早湾水門締め切りの影響が、これに大きくかかわっているとして、反対運動をつづけている。
(参考--最近の地元紙での報道)

今年に入り、これらの運動は、切実さを増し、正月からの海上デモなどの行動をつづけている。
そして、1月28日には、1979年12月の南総計画問題時と同数の1400隻の漁船のデモにまで拡大する。

水産庁と有明海を取り巻く4県は、このたび、これらの原因究明を目的とした合同研究班を、発足させた。

これらの運動の特徴は、

(1)有明海を取り巻く広範な県や地域の漁業者たちが、有明海の漁業資源に及ぼす生態系異変に危機感を持ち、行動していること、

(2)また、諫早湾の反対運動の構図が、行政対環境団体というこれまでの構図から、行政対漁業生産者という構図にかわってきていること、

(3)加えて、これまで地元なるがゆえに他の県漁連とは一線をかくしていた長崎県漁連が、ここにきて、他の3県漁連と同一歩調を取ることを決定(その後、抗議書提出には加わらず、漁船デモは自主参加となった)したこと、

(4)これによって、本年8月実施予定の諌早湾干拓事業再評価に先立ち、
事業管理委員会が聴取する地元関係団体の意見として、地元漁連・漁協が、諌早湾干拓事業計画に対し、反対の意見表明をする可能性がでてきたこと、(ちなみに、これら関係団体には、長崎県以外の有明海沿岸各県の市町村や漁連・漁協は、含まれず、これら他県団体からの意見聴取は行わないこととしてきている。)

(5)さらに、農政局と漁連との間にかわされた、基本協定書(60年10月3日)、付帯する諸条件の提示(62年2月13日)、これらについての確認書(62年9月26日)などに示された諸条件の履行について、改めて、問われかねない事態となっていること。

などである。

いわば、1979年12月の佐賀・福岡・熊本3県の漁業者による1400隻の漁船による海上デモから、1982年12月の金子岩三農相(当時)による南総計画(長崎南部地域総合開発計画)縮小決定に至るまでの、行政対漁業者の対決状況が、ここにきて、今度は、地元長崎の漁業者をも含めたかたちで、再現しそうな雲行きなのである。

ここで思い起こされるのは、オランダの東スヘルデ水門の開門にあたっての、クラーゼッツ委員会の対応である。(政策提言の項の私の論文を参照)

もちろん、この水門の開門決定にあたっては、環境団体の意向もあったが、やはり、これを大きく動かしたのは、地元のみずからの生計にかかわる漁業者たちの、環境異変に対する危機感であった。

昨年なくなられた山下弘文さんは、ご生前、諫早の問題は有明海全体の生態系の問題であるとし、できれば、アメリカの沿岸法や瀬戸内海法にあたる有明海環境保全法のようなものが出来ないかと、さかんにもらされていた。

また、一昨年のコスタリカで開かれたラムサール会議でも、潮間帯の生態系の重要性と保全に関する決議がなされたように、近年、潮間帯生態系の重要性についての、社会的認識がたかまってきた。

この有明海の生態系異変を教訓として、もし、諫早湾干拓という一つのプロジェクトが、広範な環境的影響を与えているとすれば、その原因解明と対策に、全力を注ぐことが、いま必要なこととおもわれる。

なぜなら、生態系なり水産資源に対し及ぼす影響につては、「疑わしきは、罰せず。」の態度ではなく、「疑わしきは、行わず。」の態度でのぞむべきだからである。

そして、結果水門を開くことになっても、現状では、すぐ開ければいいというものではなくなってきている。

今度は、排出水が外海の生態系に与える影響についての、更なる周到な配慮が必要となってくる。
なぜなら、いまや、潮受け堤防内の水質悪化によって、諌早湾は、いわば、どぶ水の詰まったパンドラの箱と化してしまっているからである。

切開手術をしたくとも、膿みを垂れ流すことを許されないというような、ニッチもサッチもいかない状況のもとでは、有明海の潮の動態状況を丹念に分析したうえでの、緩慢にして慎重な潮通しによってしか、事態の打開は許されないのではないのだろうか。

潮通しによって、今後、徐徐に湾内の生態系の回復をはかるにしても、もし、水門開閉の微妙なコントロールによってそれを行うとすれば、これまでの締め切りから今日まで要したと同じ年月が、あるいは必要となってくるかもしれない。

そのためには、オランダの東スヘルデ水門のコントロールシステム(バルコン・プロジェクト)などを参考にした、取り組みが必要であろう。

ちなみに、中間報告書においても、水門コントールシステムの必要性は述べられている。

もし、行政なり政治が、この期に及んで、開門を口にするのであれば、当然、腐臭ぷんぷんたる諌早湾のパンドラの箱を開けることについての功罪論や開門に伴うマイナス面を補償しうる対策を伴った発言でなければ、無責任のそしりは免れないであろう。

時すでにおそし、なのである。


かつて、現在の長崎県金子知事のご尊父であられ、水産問題に人一倍ご造詣の深かった金子岩三先生は、南総計画の縮小にあたって、漁業者と農政ひいては農業生産者との不毛の対立の発生することを、時あるごとに憂慮されていた。

これは、いわば、農林水産省所轄のテリトリー内での不毛の対決状況となることで、もっとも憂慮しなければならない事態である。

従来のいきさつにとらわれない、新たな対応を、行政・県は、いま、迫られている


参考−最近の地元紙での報道


HOMEへ目次へ

HOME -オピニオン -政策提言 -発言- profile & open - 著書 - 政策行動-図書館-掲示板 -コラム- リンク- 政策まんが

笹山登生の発言・寸感アラカルト1月19日(2001)「有明海(諌早湾)の生態系異変を教訓にすべきとき」