笹山登生の雑感&情報の日記

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2004年1月5日(月) これは手厳しいUSDA批判

http://www.missoulian.com/articles/2004/01/05/opinion/opinion2.txt では、今回USDAが発表したBSE対策は、抜本的な対策ではなく、単なる応急措置に過ぎないとして、次のようなことを主張している。

当局は、食の安全性は、これまでも安全だったとは言うが、昨年には、食中毒のケースが7千万件あったことを見ても、ちょっと検討違いのコメントであるとしている。

昨年末のアメリカでのBSE発生は、特筆すべき出来事であったとはいえ、多くの人々にとっては、さして、驚くことではなかった。

むしろ、今回のBSE発生は、これまで政府や牛肉産業界のとってきた措置が、不十分のものであったことを示したに他ならない。

たとえば、今回USDAが、ダウナー・カウの食品全面使用禁止措置と、危険部位の使用制限を打ち出した裏には、これらの措置を打ち出すにいたるまで、政府内で、それらの危険性についての暗黙の認識があったと見るべきだからである。

皮肉な見方をすれば、もし、今回、このBSE牛が、と畜場に回されずにいたならば、射殺され、農場の土の中に埋められるか、もしくは、まっすぐ、レンダリング・プラントに送られていたはずである。

すなわち、これらの牛は、決して、BSEテストを受けることにはならなかったはずである。

テストを免れた肉は、食べるひとには何もわかられずに、食卓にのっていたことであろう。

病気の牛を食物連鎖から除くことは、いい考えであるが、それが完璧とするためには、より多くの検査が必要である。

BSEの発生を一過性の出来事とみずに、これから起こりうる大発生を防ぐには、その方法しかないのである。

今回、USDAは、いち早く、カナダ主因説を大放送したが、その態度は、あたかも、今回のBSEの原因はカナダにあるといわんばかりのものであった。

問題は、アメリカはカナダとメキシコから、毎年それぞれ百万頭もの生体牛を輸入しているということである。

もし、そのうちの一頭でもBSEだったら、そのうちの数千は、BSEになっている可能性がある。

このことからも、輸入生体牛についての健康保証措置が、もっととられなければならない。

また、飼料使用規制についても、それは、農場の庭先にまで及ぶものでなければ、農家段階での交差汚染は、今後もさけられないであろうと、している。

われわれが消費者や、牛肉を食するものとして今聞きたいのは、USDA当局の誰かが「われわれのアメリカのBSEフリー戦略は間違っていました。われわれの採用した予防措置は、今になってみれば、不適切なものでありました。私達は、これから、BSE問題の抜本的解決のために努力します。」とのひと言なのではなかろうか。

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2004年1月22日(木) 人にSARS以上の危険をもたらす鳥インフルエンザ問題の推移と今後の課題

WHOがSARS以上の危険と警告

ベトナムで、今年の正月以来、鳥インフルエンザの蔓延で、死者が出たことを重く見たWHOは、1月14日、「鳥インフルエンザは、潜在的には、人間にとって、SARSより危険」との警告を出した。
http://www.channelnewsasia.com/stories/afp_world/view/66327/1/.html 参照

WHOのPeter Cordingley氏は、次のように語った。

「もし、H5N1ウイルスが、人間の普通のインフルエンザのウイルスにくっつき、そこから、有効的に、他の人間にくっついて伝搬していくと、これは、潜在的に大きな被害拡大につながっていく。

その死亡率 mortality rateは、SARSの死亡率よりも、きわめて大きいものとなる。

人間の一般的なインフルエンザウイルスは、SARSウイルスよりも、はるかに人間に感染しやすく、しかも、空気によって感染してしまう。

SARSが、 水滴 droplets によってのみ感染するのとは大違いである。

H5N1ウイルスが、最初の段階で、一般的なインフルエンザウイルスにくっつき、そして次の段階で出来た新しいウイルスが、普通のインフルエンザウイルスのような形で、伝搬していくとしたら、伝染拡大の潜在的可能性を重視しなければならない。」

としている。

なお、ベトナムの死者の多くは、子供で、しかも、発生地域の南部地方では、豚やアヒルも、死んでいるということから、ベトナム当局では、豚と鳥インフルエンザとの関係が取りざたされている。


鳥インフルエンザは、あらゆるインフルエンザのプロトタイプ


インフルエンザには、A.B.Cの三タイブがある。
 

そのうちAタイプについては、ウイルスの表面にくっつくタンパク質の性質によって、H(15段階の血球凝集素 hemagglutinin)と、N(9段階ノイラミニダーゼ neuraminidase)に分かれ、そのそれぞれの組み合わせによって、H1N1からH15N9などの組み合わせタイブに分けられうる。

Bタイプには、サブタイブがなく、Cタイプは、呼吸器疾患を起こすが、流行はしない。

Aタイプは、人間以外にも、アヒル、鶏、鯨、馬、アザラシなど、多くの動物にも、発症が見られる。

Bタイプは、人間のみである。

鳥インフルエンザは、人間を含むあらゆる動物のインフルエンザの原型-プロトタイプ―と考えられている。

ちなみに、左記の図を見ると、鳥-渡り鳥や水鳥―が、すべてのタイブのウイルスの対象になっているのに対し、ヒトがH1.H2.H3.N1.N2のタイブに対応、豚がH1.N1.N2、馬がH1.H7.N7.N8に対応、アザラシがH4.H7.N7に対応、というように、分かれていることがわかる。

ここで、これまで発生した人インフルエンザのタイブについてみれば、スペインかぜ(1918)が、A型でH1N1、アジアかぜ(1957)が、A型で、H2N2、香港型(1968)が、A型で、H3N2、ソ連型(1977)が、 A型で、H1N1、新型インフルエンザが、A型で、H5N1である。

また、これに対するワクチンとしては、平成15年度では、A型はA/ニューカレドニア/20/99(H1N1)、A/パナマ/2007/99(H3N2)、B型はB/山東/7/97である)が用意されており、H5N1型については、国立感染症研究所などで、ワクチン開発済みである。

鳥インフルエンザの多くは、無症状であるか、または、穏やかな症状を起こすのみであるが、ウイルスの菌株(によって、その症状は変化する。

たとえばH5やH7の菌株については、症状を起こすものが多い。
http://www.cdc.gov/flu/about/fluviruses.htm#three参照

これらの鳥インフルエンザを、症状を持つものと、無症状または、マイルドな症状を持つものとに分けて、LPAI(low-pathogenic avian influenza )HPAI(High Path Avian Influenza )という。http://niah.naro.affrc.go.jp/event/kai/keibyou/229s.html
または、http://www.brown.edu/Courses/Bio_160/Projects1999/av/influenza.html参照

LPAI は、珍しくないもので、症状は穏やかか、または、無症状のものである。

HPAI は、激しい症状を持つものである。

当初、LPAIであったものが、環境要因の複雑化によって、HPAIに転換することがある。
この転換するのは、ウイルスのタイプが、H5とH7のものに限られる。

これは、血球凝集素中の遺伝子配列の変化によるものと見られている。

ちなみに、日本のウイルスは、ベトナムと同じ、H5N1である。
(H=血球凝集素 hemagglutinin N=ノイラミニダーゼ neuraminidase)


豚は、ウイルスのミキサー


ここで、問題なのは、豚である。

豚は、豚独自のインフルエンザ(Pig Flu)に加えて、人間のインフルエンザにも、鳥のインフルエンザにも、ともにかかる。

インフルエンザにかかった豚は、人間と同様の鼻水をたらす。

したがって、豚が、人間、鳥を含むあらゆる動物のインフルエンザの集積体と化す危険性を持ち合わせているといえる。

もし、豚が、人間のウイルスと、鳥のウイルスとによって、同時期に、インフルエンザにかかってしまった場合、これらのウイルスが、豚内部で、新しい遺伝子ウイルスとして合成されてしまう危険性がある。

こうなると、ここで出来た新しいウイルスが、人に感染した後は、人間から人間への感染に進んでしまう危険性があるというわけだ。

ハノイ近郷の養豚場の豚からは、豚インフルエンザA(H1N1)とともに、鳥インフルエンザA(H5N1)も検出されたという。、http://www.botanical.jp/library/news/102/参照

それゆえに、専門家の間では、「豚は、ウイルスのミキサー」(pig mixer)と、ありがたくない称号をつけられている。

この豚内部で新しくウイルスが出来ることを、抗原不連続変異(Antigenic Shift)という。

もし、これらの新しいインフルエンザが、人間を襲った場合、これまでにないインフルエンザであるがために、抗体をまったく持たない人間は、劇症のインフルエンザの蔓延に見舞われるというわけだ。

このウイルスの変異を、"Drift" そして"Shift"という。

抗原連続変異(antigenic drift)というのは、比較的、長い時間をかけて、小変異を遂げるものである。

この新ウイルスが出現する過程があまりにも緩やかであるために、従来からある人間の抗体が、新たなウイルスの侵入を感知する前に、やすやすと、人間の体の中に取り込まれてしまう。

そして、抗体が、新たなウイルスと感知しない間に、すでに、他の人間へと感染を遂げてしまっている。

もう一つの変異のタイブが、抗原不連続変異(antigenic shift)
と呼ばれるものである。

このタイプは、突然に変異するものなので、多くの場合、人間には、その新ウイルスに対する防御能力はない。

豚のインフルエンザ(pig flu, pig influenza, swine influenza)の人間インフルエンザへの危険性については、次のサイトを参照
http://news.bbc.co.uk/1/hi/health/489385.stm
http://english.chosun.com/w21data/html/news/200312/200312220020.html
http://abc.net.au/animals/program4/factsheet7.htm
http://www.websters-dictionary-online.org/definition/english/ho/hog+flu.html
http://www.thepigsite.com/FeaturedArticle/Default.asp?AREA=FeaturedArticle&Display=455
http://straitstimes.asia1.com.sg/columnist/0,1886,56-182938-,00.html


香港の鳥インフルエンザH5N1の検証でわかったこと

しかし、この豚のウィルス媒介説は、1997年香港の鳥インフルエンザH5N1が、直接人間に感染したことによって、新たな見直しを迫られることになった。

1997年にはやった香港の鳥インフルエンザ H5N1 の人インフルエンザへの突然変異について、当時、ウィスコンシン大学にいた東大医科学研究所の河岡義裕教授や米ウィスコンシン大の八田正人研究員などが、その変異の過程を追求した。http://www.emersonanimalhospital.com/flue.html
または、http://www.findarticles.com/cf_dls/m1200/10_160/78681645/p1/article.jhtml参照

それによれば、鳥インフルエンザは、時として、それ自体のたんぱく質や血球凝集素の構成に歪んだ変化を生じ、H5N1となって、それを求め、鳥の細胞内に侵入し、罹患させることがあるという。

これが、人間の細胞にも入ってくるのは、ウイルスの遺伝情報を担うRNAを増やす酵素「PB2」」(RNA polymerase subunit )をつくる遺伝子の変化によるものであるという。

この研究では、1個のアミノ酸が別のアミノ酸に置き換わると、強い病原性を獲得することが分かった。

これらは、実際の臨床結果とも一致した。

別の遺伝子でもアミノ酸の置換が確認されたが、PB2遺伝子の変化の方が主因だという。


WHOは、新型人インフルエンザの蔓延を警戒


世界保健機関(WHO)は1月15日、「人への感染が広がり続けると、新型のインフルエンザウイルスが出現し、世界的な感染爆発に発展する可能性が高まる」とする見解を発表、各国に強く注意を呼びかけた。

これは、鳥インフルエンザによる人間にとっての毒性を持つ突然変異菌(virulent mutant virus )の形成(Mutation)を、WHOが恐れていることに他ならない。

1月17日、日本の新聞は、ジュネーブ発のWHOの1月16日の記者会見の記事として、次のような記事を配信した。

「世界保健機関(WHO)報道官は16日、ベトナムで3人が死亡した鳥インフルエンザのウイルスは人から人へ感染する可能性がないとの見解を示した。

報道官によると、WHOは3人を死亡させたウイルスの遺伝子配列を解読中だが、これまでのところ、人同士の間で感染するような遺伝子変異は認められていない。

このためWHOは、昨冬に猛威を振るった新型肺炎(SARS)のような大流行になる恐れは低いとみて、少なくとも現段階では渡航自粛勧告などを発令する必要はないとしている。」

しかし、この日本の新聞での楽観的な記事は、同じ記者会見でWHOが、鳥インフルエンザに関し、重要な危機意識を抱いているとの見解を、報道していない。

ここでいっているWHOの報道官は、Fadela Chaibさんであるが、彼女は正確には、こういっている。http://www.channelnewsasia.com/stories/afp_asiapacific/view/66755/1/.html
参照
「鳥インフルエンザに罹患した鳥から採種したすべての遺伝子についてからは、人から人に伝染しうる遺伝子変異を確認していない。」

「もし、人インフルエンザへの遺伝子変異が認められ、人から人へ伝染しうる状況になったとすれば、これは、非常に重要なことであるからだ。」

しかし、重要なことは、この1月16日の記者会見で、同時に、WHOの首席ウイルス学者であるKlaus Stohr博士が、「はっきりした可能性(distinct possibility )」として、次のことが言えるとしている点だ。http://www.indianexpress.com/full_story.php?content_id=39346 参照

すなわち、
「われわれは、いまは、鳥インフルエンザ蔓延の状態に、あるとはいえない。

しかし、ヴェトナムにおいて、有毒な人ウイルスの出現がでる可能性ばかりでなく、確実性があるといえる。」

また、WHOのSARSとインフルエンザのケースについての臨床学的権威者であるSimon Mandel博士は、次のように言った。

「ありふれたインフルエンザの存在が、実際はSARSの問題を拡大させている。だから、SARSを見つけることは、干し草の山の中の針を見つけるような、見つかる望みのないものを見つける試みに等しいものである。 」

といった。

日本の報道は、この記者会見の前者の部分のみ、報道し、後者のWHOが抱いている危機的見解を、なぜか、報道していない。


心配な、中国・タイでの鳥インフルエンザ発生懸念


鳥インフルエンザ問題が、一国の鶏肉輸出などと、密接にリンクしているために、報道におよびごしになっているのは、何も、日本に限ったことではない。

ここにきて、目立っているのが、タイと中国の、鳥インフルエンザ問題に対する消極的な取り組み姿勢だ。

タイのほうは、「40万羽死んだのは、コレラなどのせいであって、鳥インフルエンザによるものではない。」との発表を繰り返す政府の態度に、痺れを切らしたタイの消費者団体が、「政府は、真相をかくしている。鳥が死んだのは、コレラのせいではなく、鳥インフルエンザのせいだ。」と、抗議する。

WHOのほうも、「タイ政府から、鳥インフルエンザの付いての検査の結果は何も聞いていない。聞いていない以上、正式に調査団を派遣するわけにもいかない。」と、弱り果てている。http://www.channelnewsasia.com/stories/afp_asiapacific/view/66595/1/.html
 参照

タイでは、かねてから、「タイ政府は、すでにタイにおいて、鳥インフルエンザが発生しているのを、隠蔽しているのではないか」との疑念が、地元の有力紙を中心に、出ていた。

1月21日、タイのスダラット保健相は「肺炎に似た症状を訴えたタイ中部在住の3人に対し、鳥インフルエンザ感染の有無について検査を実施中だ。」と語った。

3人は、Nakhon Sawan県、Suphan Buri県、Kanchanaburi県の、3県の病院にそれぞれ入院しているという。

1月22日、タイの上院議員であり、議会の社会開発・人間保障委員会委員長でもあるNirum Phitakwatchara氏が「このうちの、Suphan Buri県の9歳の少年については、すでに陽性の検査結果がでている。」と、述べた。

また、同時に、Nirum Phitakwatchara氏は、「タイ政府は、これまで、鳥インフルエンザが、すでにタイに発生していることを隠蔽してきた。学者や専門家は、政治的な妨害によって、これまで、沈黙を強いられてきたが、実際のところは、タイでの鳥インフルエンザは、すでに、昨年の11月には、発生していたのだ。鳥インフルエンザに感染した少年は、現在、重症の状態にある。他の検査中の二人について言えば、一人は、鶏肉を扱う肉屋であるが、もう一人についての情報は明らかでない。」と、述べた。

これに対し、タイ政府は、隠蔽の事実を認めず、検査結果がでるまでには、ここ数日かかるであろうと述べた。

1月23日になって、ようやく、タイ政府は、その発生を認め、かつ、二人の人の鳥インフルエンザ発生も、認めた。

その後、新たに、他の三人が、鳥インフルエンザにかかっている疑いがあるとの発表をし、そのうちの一人が死亡したと発表した。

この死亡した一人が、鳥インフルエンザによる死亡なのかどうかは明らかにしていないが、この人は、Chackoengsao県の人で、細菌性の病気の疑いで入院していたものだという。

それにしても、気になるのが、この正式発表に入るまでの、タイ国内における鳥インフルエンザの蔓延度である。

タイ国内の消費者団体や活動家は、タイ政府のこれまでの隠蔽工作を非難し、早期の鳥インフルエンザ対策を要求している。

消費者団体の事務総長であるPravit Leesathapornvongsa氏は、「タイ政府は、今こそ、鳥インフルエンザの存在の事実を認めるときにきた。タイ政府がその存在を認める決断が数日間でも遅くなればなるほど、国民の健康の犠牲を大にすることになる。」という。

今回の発生の疑いのあるSuphan Buri県などでは、農民が素手で死んだ鳥をつかんだり、鳥の死体を川に捨てているという。

このことについて、関係者は、「われわれは、これらの農民の不注意な行為を非難することは出来ない。なぜなら、タイ政府は、その鳥が鳥インフルエンザで死んだ鳥だと認めていないからだ。もし、タイ政府が、今回も、鳥インフルエンザの存在を公式に認めず、予防措置を公表しないのなら、農民や鶏肉取り扱い業者は、高度の感染の危険に晒されるであろう。」と述べている。」

すでにタイの人は、11月から12月の時点で、鳥インフルエンザの存在を確信していたというから、これが事実だとすると、この一ヶ月近くの間に、上記のような農民サイドの不注意な鳥の死体の取り扱いなどから見ても、相当の蔓延をしてしまっていることになる。

中には、ベトナムの鳥インフルエンザも、タイの鳥によるものだとする説さえあるのだから、事態は深刻である。

あるいは、日本の山口で発生の鳥インフルエンザだって、タイが原因と、考えられなくもないことなのだ。

それにしても、タイの経済重視による鳥インフルエンザ隠蔽の疑惑は、世界に迷惑をかけたのではないかという見地からも、正さなければならないだろう。

ここにきて、ラオス、カンボジアでの発生も確認され、いよいよ、戦戦兢兢としているのが、中国とオーストラリアである。

特にオーストラリアが警戒しているのが、渡り鳥や水鳥による、鳥インフルエンザのオーストラリア内での感染拡大の恐れだ。

オーストラリアのthe Quarantine Inspection Serviceは、すでに、空港や、港湾、郵便局などの要所でのサーベイランスをはじめているという。

また、中国のほうも、広東省など、あらゆる家禽が密集飼育されていて、もっとも、鳥インフルエンザから人インフルエンザへの変異がしやすい地域の情報が伝わってこないことに、WHOは、危機感を強めている。

WHO は、SARSの場合も、中国の初期指導が遅かったことが、世界的蔓延を招いたとの教訓から、鳥インフルエンザに付いても、その二の舞になるのではないかと、懸念している。

「中国側は、鳥インフルエンザ問題について、われわれの土俵に上ってこない。度重なる情報公開要請にもこたえてくれない。」と、サジを投げた形だ。

WHOアドバイザーのRobert Webster教授は、「今、鳥インフルエンザに付いて、もっとも必要なのは、中国本土のからの情報です。現時点では、この鳥インフルエンザがどこから来たのかについては、中国からの情報がない限り、類推するしか手がないのです。今、ベトナムで鳥インフルエンザによって、多数の死者が発生していることは、きわめて深刻な事態です。もし、H5N1ウイルスについて、手の施しようのない状態にでもなったら、これまでのSARS問題など、問題にならないくらいの(like a puff of smoke)深刻な状況になるでしょう。」と警告している。

また、中国側からブラックリストに乗っているとされる、ある匿名氏は、「この鳥インフルエンザの問題は、まさに、経済問題なのです。もし、中国が、鳥インフルエンザがあることを認めれば、直ちに、中国の輸出に影響するのです。」という。http://www.telegraph.co.uk/news/main.jhtml?xml=/news/2004/01/18/wflu18.xml&sSheet=/news/2004/01/18/ixworld.html参照

1月21日、香港漁農自然護理署は、屯門ビーチ付近の住宅区の養鶏場近くで発見された野鳥ハヤブサの死骸の体内から鳥インフルエンザH5N1ウイルスが確認されたことを明らかにした。

専門家の間では、これが、中国に、すでに鳥インフルエンザが存在していることの証左であると見る向きもある。

1月27日、ベトナムに国境を接する広西の南西地区で、いくつかの家禽が、H5N1鳥インフルエンザで死んだことを、中国の国家禽流感参考実験室が認めた。

そして、中国南部の湖南地方や中央部の湖北地方武穴市でも、この週末にかけて、鳥やアヒルが死んだ。

また、中国の中央テレビ局(CCTV)が火曜日に報じるところによれば、これらも、鳥インフルエンザによって死んだものと思われる。

CCTVによれば、今のところ、人間への感染は認められないという。

この1月23日に、広西の農場で、アヒルが卒倒し、後に死んだ。

地方衛生部での最初の検査では、これは、鳥インフルエンザによるものと判断し、広西地方当局は、そのサンプルを直ちに、国家禽流感参考実験室に送った。

1月23日、当局は、周囲3キロメートル以内の鶏すべて一万四千羽の殺処分を命じた。

そして、5キロメートル以内の鶏については、隔離した。

国家禽流感参考実験室は、現在、湖南地方と湖北地方から送られたサンプルの検査をしている。

これら地方の鶏についても、殺処分をしているが、CCTVは、その羽数については、明らかにしていない。

地方の獣医出先機関は、これらの死因を、H5N1鳥インフルエンザによるものと見ている。

中国政府は、あらたなH5N1鳥インフルエンザの発生についての調査に関し、高度の警戒態勢をしいており、他地区へのウィルス拡大防止に努めている。

中国国務院は、感染地域のすべての家禽生産食品の他地区または、他国への輸出を禁じたと、CCTVは、報じている。

中国の農業省と健康省は、国内の状況をWHOに報告した。

そして、中国政府は、この事態克服のため、世界の関係諸機関と、喜んで協力すると述べた。

農業省は、報道機関に対し、鳥インフルエンザに付いてのあらゆる情報をタイムリーに伝えるであろうと、CCTVは述べた。




渡り鳥と、鳥インフルエンザとの関係を追求するS2E.Migrateursプロジェクトを見習うべき


人にも動物にも感染しうるウイルスとして、パラミクソウィルスParamyxo
virus(ニパウイルス)がある。

もともとは、大こうもりが持っているウイルスが、鳥や動物や人を経るものらしい。

西ナイル熱も、SARSも、ニューカッスル病も、このパラミクソウィルスParamyxovirus の仲間である。

一方、鳥インフルエンザは、これとは違う、オルソミクソウイルスOrthomyxovirus である。

渡り鳥は、これら二つの性質の違うウイルスの運び屋になっているというわけだ。

上記のWHOの鳥インフルエンザ問題についてのかなりの危機意識からすれば農水省の食料・農業・農村政策審議会家禽疾病小S2E.Migrateurs委員会の喜田宏委員長が、1月15日の記者会見で、私的見解として、渡り鳥が国内にウイルスを持ち込んだ可能性は低いとの見方を示したのはかなり楽観的に過ぎる見解のように思われる。

もちろん、鳥インフルエンザが、豚などの家禽を介して、猛毒の人インフルエンザに突然変異する環境は、ベトナムなど、豚や鶏、アヒルなどが、狭い地域内で、混在密集している地域で起こるのであって、日本などの近代化され、衛生的な家禽施設内では、起こりにくい社会的な条件はあるだろう。

しかし、だからといって、日本において、鳥インフルエンザが、人間にとって有毒な突然変異菌に、家禽を介して、突然変異しないという保証はないのである。

だから、この問題は、単に畜産を主体とした農林水産省マターの話に終わるのでなく、豚を介した鳥インフルエンザによる人間にとっての有毒な突然変異菌の形成という観点に立った、厚生労働省主体の疫学的判断が必要になってくるのだと、私は思う。

ここで注目すべきは、S2E.Migrateurs projectである。

projectは、tele-epidemiology(データ通信疫学とでも訳すのだろうか?)という手法を使ったものだ。

このプロジェクトについては、http://www.cnes.fr/actualites/dossier_bourget/pdf/epidemies_en.pdf
http://www.cnes.fr/actualites/dossier_bourget/en/2equitable2.htmを、参照。

tele-epidemiologyは、地球上の疫病の流行が特に気象データや地球観測データなどと関連していることに注目し、気象情報や、疫病発生情報について、地上収集データと人工衛星データとを、リンクさせようとする試みだ。

地上データのデータ収集としては、臨床ケースデータ、ワクチンや結成の使用状況データ、人口移動データ、農地開発状況、蚊の発生データ、降雨量データなどがある。

地球観測データとしては、熱病発生に関係のある、森林伐採状況データや灌漑排水状況データなどがある。

気象データとしては、マラリアや脳膜炎に関係があるとされる、冷気分布状況や、風向、風力に関するデータがある。

科学的データとしては、これらを広げるプランクトンに関係のある、海面の高さや温度などのデータがある。

これらのデータをリンクして、疫病の発生や広がり、終息などを予測するというものだ。

このシステムを渡り鳥と疫病との関係にポイントを絞ったのが、S2E.Migrateurs projectだ。

ここでは、渡り鳥とウイルスの伝搬に焦点をあわせ、特に、渡り鳥と、豚などの動物、そして人間への伝搬の過程について、トレースしている。

日本の環境省は、これまで、「アジア・太平洋地域渡り性水鳥保全戦略」にもとずき、水鳥の資源面からの、東アジアでの調査協力体制を敷いてきた。

ここにきて、鳥インフルエンザの東アジアでの発生を期に、今度は、疫学的見地からの調査を、この戦略に入れざるを得ない情勢である。

1月15日、環境省は、韓国などで検出された鳥インフルエンザ・ウイルスと日本のウイルスとが、同型であったため、渡り鳥が感染にかかわった可能性があるとして、鳥類の専門家などから話を聞き、韓国からの渡り鳥の種類、数などに関する情報を収集、整理することを決めた。

この際、厚生労働省と、充分連携の上、渡り鳥と、鳥インフルエンザの伝搬についての究明を行ってもらいたいものだ。

いつから鳥インフルエンザは発生していたのか



ここにきて、いろいろな機関から、今回の鳥インフルエンザは、もっと、早い頃から、蔓延していたのではないかと、危惧する声が上がってきた。

1月28日づけNew Scientist http://www.newscientist.com/news/news.jsp?id=ns99994614  では、「鳥インフルエンザの発生は、おそらく、中国で、早くも2003年の前半から、始まっていた。」とした。

それによれば、1997年、香港で、H5N1鳥インフルエンザで6人の人間が死んだ後、すべての鳥が殺処分されたとき、中国の生産者達は、殺処分をしようとする機会を失い、H5N1ウィルスの不活性化について、ワクチン予防で対処することから、このときのウィルスが、変異を遂げながら、今日まで生き延びたとしている。

さらに、この論文では、WHOのインフルエンザ担当主席のクラウス・ストーラー氏が、「われわれは、昨年はじめの時期に採種したサンプルが、この菌株であることがわかっている。」とし、そのサンプルが、中国からとられたものであることを暗に示唆した。

さらに、http://www.vov.org.vn/2004_01_30/english/chinhtri2.htm では、WHOのMs Maria Cheng さんが,「二週間前に,WHOは,昨年4月に採取されたサンプルを受け取り,これを検査したところ,最初の検査では,H5N1ウィルスが,検出された。」と述べ、それが,現在流行しているものと同じ型のものであるかどうかについては,はっきりとした確認はしていないとしながらも,「よく似ている。」とした。

もし、これらの見解が本当だとすれば、先に記した各国での鳥インフルエンザ発生についての隠蔽疑惑ともあいまって、H5N1ウィルスは、すでに、根絶しがたい規模で、東南アジアや西南アジアに広まっていることになる。

また、鳥から人への感染の連鎖ピラミッドも、すでに構築されていると見なければならないだろう。

なお、鳥インフルエンザに関する情報は、「鳥インフルエンザに関するニュースリンク集」を、ご参照ください。


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2004年1月25日(日) LANCETの論説「おぼろげながら浮かび上がってきた、鳥インフルエンザの脅威」

THE LANCETの2004年1月24日付けの論説「Avian influenza:the threat looms」の全訳(仮訳)は次のとおり

WHOによれば、1月20日までに、ヴェトナムでH5N1の鳥インフルエンザによって死んだ人は、5人に及んだという。

そのおおくは、家禽からの伝染であり、人間からの伝染は今のところないもののようである。

日本・韓国でも同様にH5N1の鳥インフルエンザが発生している。

鳥インフルエンザは、Aタイプのインフルエンザ・ウイルスによって引き起こされ、多くの動物に感染する。

高病原性鳥インフルエンザは、H5とH7のサブタイプによって引き起こされる。

野生の鳥は、これらウイルスの自然の貯蔵庫であり、おそらくは、他の動物への感染の源である。

Aタイプインフルエンザは、高度に不安定である。

それは、抗原不連続変異(Antigenic Shift)と抗原連続変異(antigenic drift)があるためである。

1997年に18人の罹患者と6人の死者を出した香港型は、H5N1であった。

これは、H5N1のインフルエンザが、ダイレクトに人間に伝染した最初の例となった。

2003年には、二人の香港居住者が、中国から帰った後、インフルエンザにかかり、H5N1タイプのインフルエンザに進化して、一人が死んだ。

同じ年に、H7N7タイプのインフルエンザがオランダの養鶏場で発生し、一人の獣医が死んだ。

アジア諸国における家禽生体市場は,鳥インフルエンザの繁殖地である.

これらのいわゆるウエット・マーケット,すなわち生鮮市場は,これらの諸国における食文化に,しっかり根付いている。

鳥インフルエンザ発生に対する主な対応は,いま,ヴェトナムで行われているような,大淘汰(殺処分)である。

1997年の香港における鳥インフルエンザの大発生においては,百四十万羽の鳥と,他の家禽が淘汰(殺処分)された。

1999年の鳥インフルエンザの大発生においては,百二十五万羽が淘汰(殺処分)された。

地方における広範囲な人口集団にとって,これらの淘汰は,経済的にも健康的にも,大きな影響を与える。

食材資源を農家の家禽に大きく依存する諸国や共同体にとって,この大淘汰は,今後大きな重圧を与える。

農家経営者にとっては,財政的な補償措置が必要になってくるし,また,鳥肉に代替しうる食材資源を見つけることが必要になってくる。

今回鳥インフルエンザの汚染を受けた諸国は,世界でも貧しい部類にはいる国々であるため,補償措置と,鶏肉輸入については,国際的な援助機関による援助が考えられるべきである。

もし、H5N1インフルエンザが人と人の間で伝染し始めたら,人間の健康にとって,どうなるのであろうか?

このような大惨事は、これまで、起こってはいない。

しかし、世界の伝染病の専門家の間では、もっとも恐れられている事態の一つなのである。

1997年の香港でのH5N1インフルエンザ発生までは、H5N1は、人間に伝染するには、豚のような媒介物が必要であるとの見解が主流であった。

すなわち、豚の上気道と呼吸器の上皮細胞が、鳥と人間のシアル酸誘導体と共有することで、豚を介してのウィルスの鳥から人間への伝染が生じるとされてきた。

現在の専門家の最大のおそれというのは、H5N1のような菌株が、人のインフルエンザと交じり合って、人間に接触伝染しやすいものになってしまうことにある。

この菌株と関連する人インフルエンザが高い死亡率をもつことを考慮すれば、この世界的蔓延には、非常に恐るべきもの(massively frightening)があるのだ。

もし、H5N1インフルエンザが世界に蔓延した場合、種痘は,これに対応する選択肢に入ってこない。

伝統的なワクチンの作り方は、鶏胎児胚細胞培養法(Chick-Embryo)といわれるものである。

この方法は、ワクチン生産にいたるまでが遅く、また、受精卵の供給が限られている。

H5とH7のサブタイプのワクチンは、標準の方法では、作ることが出来ない。

なぜなら、鶏胎児胚細胞を急速に致死に至らしめるからである。

Plasmid reverse genetic 技術によれば、これら用のワクチンは作られうるが、これは、まだ、臨床実験の段階である。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=12163268&dopt=Abstract
 参照

抗ウイルス薬は、高価で、効果がまだ十分ではない。

インフルエンザは、SARSよりも、接触伝染の可能性が高く、SARSと同じ隔離方策では、インフルエンザをコントロールすることは出来ない。

このように、高病原性鳥インフルエンザが人間に蔓延する可能性については、きわめて深刻にとらえられなければならない。

今回のヴェトナムでの蔓延に際しては、WHO、アメリカ疾病管理予防センター、国連FAOのチームが、迅速に、ヴェトナムに入った。

ここで、明らかになったことのひとつは、過去20年間に出現した人間にとっての新しい伝染病のすべては、動物に由来したものだと仮定すれば、それらの病気をコントロールする上では、獣医学と畜産学が、臨床医学同様に重要なものであるということだ。

財政的・資源的な配分が、それらの分野になされれば、動物の専門家は、それらの新しい伝染病の出現を見落とすことはないであろう。

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2004年1月27日(火) これまでにない人畜共通伝染病のおそれ

ロイターが、サイトhttp://www.reuters.co.uk/newsArticle.jhtml?type=healthNews&storyID=4211937§ion=newsで、Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)の2004年2月3日号の ロッテルダムのthe Erasmus Medical Centerの Ron A. M. Fouchier博士の論文を紹介した。 

論文の概略は、
http://www.pnas.org/cgi/content/abstract/0308352100v1?maxtoshow=&HITS=10&hits=10&RESULTFORMAT=&fulltext=Fouchier&andorexactfulltext=and&searchid=1075162926455_7550&stored_search=&FIRSTINDEX=0&sortspec=relevance&resourcetype=1

に記されている。

これによると次の内容である。

H5とH7のサブタイプである高病原性鳥インフルエンザAウィルスは,家禽の伝染病の原因となる病原体である。

H5N1のサブタイプであるインフルエンザAウィルスもまた,1997年と2003年に,香港で,重度の呼吸器疾患を,引き起こした。

2003年2月から5月にかけて流行したオランダのH7N7によるインフルエンザについて、ロッテルダムのthe Erasmus Medical Centerが調べたところ、鶏から採種した高病原性のH7N7のウィルスと野鴨から採種した低病原性ウイルスとが、連関性を持っていることがわかった。

また、同じウイルスは、家禽類を扱っていた86人の人間からも検出された。

89人の患者のうち、78人が結膜炎を患っていて、5人が結膜炎とインフルエンザの症状を呈していて、2人が、インフルエンザの症状を呈していて、4人は無症状だった。

これらの人のインフルエンザ症状は、概してマイルドなものであったが、激しい呼吸切迫症候群(RDS)をともなった重度の肺炎を患っていたのが特徴であった。

それらの人から採種したウィルスのおおくは、突然変異を見せていなかった。

しかし、重症患者から採種したウィルスからは、14箇所に(突然変異による)アミノ酸置換を起こしており、このことが、病気を重症にした事と、関連があるのではないかとしている。

H7N7ウィルスは、過去に何度か、馬やアザラシや人間などの哺乳類に病気をもたらしているところから、これらは、これまでにない人畜共通伝染病であり、人間に蔓延する脅威をもたらすものであるとしている。

参考 http://www.google.co.jp/search?q=cache:9T46kfc0mn4J:life.zsu.edu.cn/bioacademe/immunology/kuby_imminology5e/0716749475_17.pdf+amino+acid+bird+flu++H7N7&hl=ja&ie=UTF-8


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2004年1月28日(水) カナダが,秋田県 の男鹿水族館へのホッキョクグマ寄付を断った背景

旧来の動物園的考え方と、アニマルライツ尊重の考え方との相克

今年7月に新装オープンする秋田県立男鹿水族館(同県男鹿市)が、展示の目玉としてカナダ・マニトバ州にホッキョクグマ(Ursus maritimus)の寄付を要請していたが、同州政府が却下していたことが、本日、2004年1月28日分かった。http://www12.mainichi.co.jp/news/search-news/896108/83z83b83L838783N83O837d-0-1.html http://www.mainichi.co.jp/area/akita/news/20040129k0000c005001000c.html
http://www.sakigake.co.jp/servlet/SKNEWS.News.kiji?InputKIJICODE=20040129g 参照

同館は建設費を1億5000万円増額して同州の基準に合わせたクマ舎を建設、受け入れ準備を進めていた。

改めて寄付を要請する方針だが、クマの迎え入れは厳しい情勢とのことだ。

これらの問題は、「タマちゃん問題とアニマルライツへの誤解」でも述べたような、アニマル・ライツ(動物の権利)問題と、旧来の動物園的考え方が、ここにきて相克をおこしている現象の一つとして、とらえるべきものだ。

強まるホッキョクグマ輸出への規制

サイトhttp://www.zoocheck.com/programs/wildlife/forgotten/exec.shtml によれば,カナダの自然保護団体「ズーチェックカナダ」 は、the Manitoba Polar Bear Export Program (MPBEP) というものを提唱しており、このなかで、ホッキョクグマの輸出条件として,六つの条件を掲げている。

1.狭すぎる動物の囲いはだめ

2.軟質基板がないものは,だめ

3.環境の質が悪いのはだめ

4.プールが不適切,または,汚れているものは,だめ

5.異常に陳腐な行動をさせるのは,だめ

6.ホッキョクグマ受け入れ後,他の施設への,転売・移動・貿易などは,だめ

という原則のようで,おそらく,秋田の水族館の場合も,この6条件のいずれかを満たさなかったものと思われる。

なお、http://www.zoocheck.com/programs/wildlife/forgotten/involve.shtml
には、ホッキョクグマ輸出認可にいたるまでについての、細かな手順が記されている。

さらに,2003年1月成立したManitoba's Polar Bear Protection Actと,2002年8月成立のTHE RESOURCE TOURISM OPERATORS ACTとの二つの制約から,より条件が厳しくなった模様である。

加えて、カナダのWSPA Canadaのホームページに、2002年2月公表の‘Japan’s illegal trade in bear products: A threat to bears worldwide’(日本におけるクマ製品の不法取引−世界中のクマへの危機-)」(日本語では、「ユウタン(熊胆)取引とクマの保全」)と題した、日本の野生生物保全論研究会(JWCS)の戸川久美さんや、坂元雅行弁護士の論文が掲載されたことも、影響しているのかもしれない。(ユウタン取引については、「環境省と厚生労働省によるJWCSの勧告への回答」も、ご参照)

サーカスの教訓 「動物というものは、とらわれの身では、うまくいかないものだ」

昨年8月27日に、自然保護団体「ズーチェックカナダ」が,http://www.zoocheck.com/programs/wildlife/polar/Japanese.shtmlに,次のような内容を報じている.

「動物園のためのホッキョクグマ捕獲を禁じる新しいマニトバの法律は、一組のホッキョクグマを買いに来た日本の秋田県からの訪問団が帰った後に試行されるであろう。

マニトバの野生生物の事務局長であるジャック・デュボイスさんは、次のように語った。

「秋田から来た7人のメンバーは、2004年7月に開館する男鹿水族館の目玉として、ホッキョクグマを小熊一頭か二頭をほしいといってきた。」

マニトバの昨年成立した、ホッキョクグマ保護法では、動物園のための捕獲は、そのクマが孤児の場合、一定の条件の下で、捕獲できるとしている。

「われわれは、最後の手段として、安楽死させることが出来る。」と、デュボイスさんは、言った。

「日本の人は、そのことを知っているだろうし、それでも、なお、欲しいと言っているのだ。」といった。

「この保護法は、マニトバ生まれの三匹のホッキョクグマが、メキシコ(に拠点のあるCirco Hermanos Suarez -Suarez Brothers Circus- )(左記に写真あり)のサーカスで、辛いものや、ドッグフードや白いパンなどの食品を与えられ、虐待されたことに、国際的な抗議の声が上がったことを受けて制定されたものだ。

シカゴに本拠地のある the People for the Ethical Treatment of Animalsのスポークスマンの Debbie Leahayは「もし、われわれが、メキシコの失敗に学ぶとすれば、動物というものは、とらわれの身では、うまくいかないものだということだ。」という。

このthe People for the Ethical Treatment of Animalsという団体は、2001年に、アメリカ政府に対して、このメキシコのサーカスのオーナーに対して、その残虐性に対して、告訴すべきであると、促した。

そこで、政府は、それから、サーカスからクマを引き取り、動物園に飛行機で運んだが、そのうちの一匹は、途中で死んでしまった。」

以上が,ZooCheckCanadaが報じた内容だ。

根本からすれ違っていたカナダと秋田との動物保護のスタンス

2003年8月23日のPeter M. Libaマニトバ州副知事の寺田秋田県知事ご一行歓迎の挨拶では,http://lg.gov.mb.ca/speech/2003/julaug/northern_welcome.htmlに見るように,マニトバ州副知事がマニトバのホッキョクグマにふれたくだりは,わずか二行であり,しかも,その内容は,「ホッキョクグマのいる公園Wapusk National Parkは,秋田県と同じ面積だ。」というくだりのみであった。

しかし、このメッセージには、裏を返せば、「ホッキョクグマには、これほどの広大な環境が必要だ。」との意図が秘められているようにも、受け取られる。

「また、秋田県議会商工労働委員会の会議録では、このようなカナダ側の自然保護上の事情についての県当局側の説明は、ごくわずかで、委員の間では、「クマが来なかったら、知事や観光課長が、ぬいぐるみを着て、代わりに檻の中に入るべきだ。」などという、のどかな議論が展開されていた。

さらに、この委員会での観光課長の発言を、そのまま掲載すると、「プエルトリコに行ったクマが死んだと、その後にホッキョクグマ保護法ができました。ホッキョクグマ保護法に適合した施設はまだプエルトリコにもありませんので、その後は行っていないと思います。」といっている。

ここで、観光課長は、三つの誤った発言をしている。

第一は、マニトバのホッキョクグマが行って、動物愛護団体から問題になったのは、ホッキョクグマが、動物園に行ったのではなく、サーカスに行ったのであるということ、

第二は、プエルトリコは、動物園の施設のあるところではなく、たまたま、そのサーカスが、巡業途中にプエルトリコにいっていて、動物愛護団体の抗議を受けて、そのプエルトリコで、サーカス団が保有する七頭のホッキョクグマのうち、2002年3月にそのうちの一頭を、そして残りの6頭を2002年11月に、奪回・保護したものだということ、

第三は、プエルトリコに行ったクマが死んだのではなく、プエルトリコで救出したクマの一匹であるRoyaleという名のクマが、他のクマとともに飛行機で、プエルトリコからアメリカへ運ばれる途中で、死んでしまったということ

である。

となれば、「ホッキョクグマ保護法に適合した施設はまだプエルトリコにもありませんので、その後は(マニトバのホッキョクグマは、プエルトリコへは)行っていないと思います。」との発言は、なんとも、意味不明の発言であることがわかる。

これについては、http://www.zoocheck.com/action/default.asp?load=150 http://www.awionline.org/pubs/Quarterly/Spring02/suarezseven.htm
http://www.hsus.org/ace/15746
http://www.sunherald.com/mld/sunherald/news/breaking_news/4556275.htm
の記事を参照。

このような経緯をトレースしてみると、この問題についてのカナダ側の意向と、秋田県側の認識とでは、その根本から、かなりのズレを見せていたことがわかる。

秋田県側は、「環境大臣が代わったため」対応が厳しくなったとの見解を示しているが、このような経緯を見てみると、そうではなく、そもそもの野生生物に対する認識について、カナダ側と秋田側とでは、大きな差があったと見なければならないようだ。

世界的に見直しを迫られている動物園での野生動物飼育

EUでは、1999年に採択された「動物園における野生動物飼育に関する指令」(EU Zoo Directive )にもとずき、EAZAなどを推進力にして、各国で、動物園法なり動物保護法を制定する動きが急である。

参考 Born Free Foundation http://www.bornfree.org.uk/index.html
   Veterinary Government & Law Resources http://netvet.wustl.edu/law.htm

日本の、ZooCheckと同趣旨の機関である地球生物会議は、「秋田県は、シロクマの生育環境に最も適した施設であると強調しているが、それならば、日本国内の動物園で劣悪な環境下で飼育されているシロクマを受け入れてはどうか」と、提言している。

この広義の意味での動物のAdoption(養子縁組)の考え方を、動物園の世界にも適用しようとするアイデアには、私も、賛成だ。

特に、この数年、宝塚、池田(岡山)、栗林公園到津遊園、岐阜市立公園動物園、徳山動物園など、各地で、動物園の廃園や経営悪化が続いており、行き場を失った動物たちが、二束三文で、譲渡されるような動物園経営環境悪化の時代である。

動物の移籍交渉の結果、引き取り手のない動物たちは、「余剰動物」となってしまう。

このうち、ホッキョクグマについてみれば、平成12年6月12日には、池田動物園から、上野動物園に、2003年7月11日には、宝塚動物園から、よこはま動物園ズーラシアに、無事、移管された。

たとえば、イギリスのChester Zooのように、動物園の会員になれば、動物のAdoptionの特典を得られるというシステムを採用しているところもある。

また、この動物のAdoptionシステムの変形として、Dallas ZooのAdopt-An-Animal programに見るように、動物園内の特定の動物について、市民がAdoptionすることで、動物園がかかる食費を中心とする膨大な費用を、市民がシェアするという目的のためにも、使われている。

さらに、The SchoolWorld Zoo Adoption Centerの考え方は、世界の学校をインターネットで結び、それぞれの学校の子供達が、コアラなどの動物をバーチャルにAdoption しようという考え方だ。

このようないろいろな形で、いわば、日本の各地の動物園に分散している希少動物を、国民共有財産として、シェアするシステムの構築が、このAdoptionシステムの応用によって可能となるような気がする。

アニマルライツ運動の父であるプリンストン大学教授Peter Singerさんは、http://www.cbsnews.com/stories/2002/02/19/60II/main329882.shtml で、次のような言葉を述べている。

“もしヒトが、たとえば無用な苦痛を受けない権利のような、基本的権利を持つならば、動物も同じ権利を持つ”

“ある生き物が私たちと同じ動物種のメンバーでないとからといって、その生き物が感じる痛みを考えなくてもよいことにはならない。”

以上


ホッキョクグマ関係記事は,
http://www.gov.mb.ca/chc/press/top/2003/08/2003-08-23-01.html
http://www.pref.akita.jp/tiji/15year/030901.html
http://www.pref.akita.jp/tiji/15year/030818.html
http://www.pref.akita.jp/gikai/iinkaikaigiroku/h15-09/h15-09syoukou.htm
http://www.pref.akita.jp/pref_voice/show_detail.htm?serial_no=191
http://www.pref.akita.jp/tiji/16year/040202.html
http://mytown.asahi.com/akita/news02.asp?kiji=5521
http://www.sakigake.co.jp/servlet/SKNEWS.News.kiji?InputKIJICODE=20040203b

http://www.pref.akita.jp/tiji/16year/040218.html
にもあります.

動物の権利については、「一歩前進した自然の権利代弁訴訟 」も、ご参照ください。

ホッキョクグマがいる、日本の動物園

札幌丸山.旭山(旭川). おびひろ.釧路市.八木山(仙台). 上野. 横浜(宝塚より受け入れ).野毛山.横浜八景島シーパラダイスアクアミュージアム.金沢. 日本平.浜松市. 豊橋総合動植物公園. 名古屋市東山.京都市.アドベンチャーワールド.みさき公園(大阪).大阪天王寺.王子(神戸).姫路市. 徳島. とべ(愛媛). 徳山.福岡市.別府ラクテンチ.熊本市.カドリー・ドミニオン. 鹿児島市平川動物公園

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2004年1月29日(木) 「鳥インフルエンザは、一年前から発生していた」とのNew Scientist 1月28日の記事

1月28日づけNew Scientist http://www.newscientist.com/news/news.jsp?id=ns99994614  は、以下の記事を掲載している。

「鳥インフルエンザは、一年前から発生していた。」

この一週間、いくつかの国が、次から次へと、「何百万羽の鳥と、幾人かの人間が、鳥インフルエンザにかかっていた。」ということを認めた。

このことで、われわれが、これまでにない最悪の病気発生の事態に直面していることが、明らかになった。

なぜ、このようにコントロールが効かない事態になってしまったのか?

鳥インフルエンザ発生について、これまで頑強に否定してきたインドネシアは、今週、H5N1ウィルスが、昨年8月から全土に広がっていたことを認めた。

タイは、それが、昨年の11月から広がっていたことを認めた。

中国は、今週初めて、鳥のインフルエンザの検出を認めたと言っている。

「実際のところ、鳥インフルエンザの発生は、おそらく、中国で、早くも2003年の前半から、始まっていた」と、健康関係の専門家は、ニューサイエンティスト紙記者に言った。

国当局の公然の隠蔽と、問題の多い家禽飼育習慣との結合が、あいまって、現在進行中の鳥インフルエンザの蔓延につながった。

アジアの繁栄は、家禽生産システムの集約化の横行を招いた。

1997年、香港で、H5N1鳥インフルエンザで6人の人間が死んだ後、すべての鳥が殺処分されたとき、中国の生産者達は、殺処分をしようとする機会を失い、H5N1ウィルスの不活性化について、ワクチン予防で対処することからスタートした。

これが、おそらく、誤りであった。

もし、ワクチンが、現在アジアに広がっているH5N1の菌株のように、そのウイルスとマッチしなかった場合、そのウィルスは、何倍にも複製されるのだが、多くの動物は、それに感染しても、病気の症状を見せない。

これと同じような形で、中国南部における集中種痘計画の実施によっても、ウイルスが、見いだされることないうちに、広く広がってしまうことになる。

「われわれは、ワクチン予防は、望みません。」と、バンコクのFAOのハンス・ワーグナーさんは、言う。

このことは、なぜ、WHOが、インドネシアが、今回の鳥インフルエンザ対応について、「殺処分によらず、ワクチンによって対応する。」との声明を出したことに対して、がっかりした反応を示したのかということについての理由ともなる。

ワクチン予防は、H5N1の最新の変種の原型となるウィルスには対応できても、すでに、ウィルスそれ自体が、それらのワクチンを有利に回避出来るものに変わってしまっているのだ。

現在のウィルスの菌株は、2002年末に香港のPenfoldParkで発見されたものと良く似ている。

これは、通常より好条件で、アヒルに複製され、広範囲の野生の鳥に感染したように、見られる。

そして、広がりやすい特性をもつ糞便や、経口で、発散していったものと見られる。

現在、韓国やヴェトナムで発生しているウィルスは、両国のウィルス同士、似たものである。

他の国から異種したウィルスについては、現在分析中であるが、すべての鳥インフルエンザの大発生が、あたかも、一つの菌株の大規模な分布によって始まっているように見えると、WHOのインフルエンザ担当主席のクラウス・ストーラー氏は、言う。

「われわれは、昨年はじめの時期に採種したサンプルが、この菌株であることがわかっている。」と、クラウス・ストーラー氏は言うが、そのサンプルの採種地がどこであるかは、明らかにしなかった。

しかし、他の専門家の話では、そのサンプルは、中国からとられたものであるとのことである。

強じんに広がりを見せるという、このウィルスのパターンは、このウィルスが、家禽を密輸する人々によって運ばれているということを意味している。

これら家禽の密輸は、東南アジアでは、広く行われていると伝えられている。

ある専門家は、渡り鳥が原因だとするが、その証拠はない。

家禽に鳥インフルエンザが大発生している地域では、その地方の野生の鳥が影響を受けていることは確かである。

タイの動物園で、大量の珍鳥が死に、バンコクの路上では、多くの鳩の死骸が山積みされていると、伝えられている。

しかし、タイにおける渡り鳥の定点観測では、ウィルス感染の兆候は見られていない。

WHOにとって、いま、まずなすべきことは、人間への感染の引き金となりうる鳥インフルエンザ蔓延の阻止である。

いまのところ、人間感染のケースは、12人未満であり、それは、タイ、ヴェトナム、カンボジアである。

しかし、このほかに、未確認のケースが、さらに多くあるものと見られる。

ストールさんは、「このように広い範囲で、人間が、鳥インフルエンザに曝露しているのに、このように少しの人間しか感染していないということは、希望の持てる事態だ。」という。

これまでのところ、ウィルスは、人間から人間への感染までには、いたらないように見える。

もっとも恐るべきは、人間の誰かが、人間のインフルエンザと、鳥インフルエンザの両方に感染し、人から人へ広がりうる致死的なハイブリッドのウィルスを、体内で作り出してしまうことだ。

今週ジュネーブでひらかれた会合で、WHOは、鶏を扱う人で、人インフルエンザにかかった人が、同時に鳥インフルエンザにかからないようにするため、製薬会社と各国政府に対して、もっと多くの抗ウィルス薬と、普通のワクチンを用意することを要請した。

しかし、その規模というのは、dauting(ママ)である。

ストーラー氏は、「われわれは、十万錠のタミフルをすでに持っているが、これは、大海の一滴に過ぎない。このことは、人間のワクチンについても、同様のことが言える。」と、言っている。

付記−これらのNewScientistの記事に対し,本日,中国のQi Jingfa農業次官は,「これは,単なる憶測であり,根拠のないかんぐりである。われわれは,厳しいサーベイランスを行っている。」と述べ,また,中国当局のスポークスマンZhang Qiyue氏は,「このような疑惑は,まったく正確さを欠くものであり,根拠のないものであり,科学的なものでないと,信じている.」 と,コメントしたと,http://www.channelnewsasia.com/stories/afp_asiapacific/view/68550/1/.htmlなどで報道された。

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